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学力に必須、中学受験にも役立つ「短期記憶力」を「聞く力」で伸ばす方法

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公開: 最終更新日:2021年07月13日

小学校4年生になると、小学校でも全科目の学習内容が変わり、子どもの学力の差が開いてくるため、心配になる親御さんが多くいます。
また中学受験の勉強を始めるのもこの頃。塾では学校以上にお子さんたちの学力差は学校以上につき、受験結果を左右するほどになります。
この、4年生以降の学習に大きく影響するのが「短期記憶力」です。

ここでは「短期記憶力」を日常の「聞く力」で伸ばす方法を考えてみたいと思います。

「短期記憶」とは

私たちが情報を得たとき、脳内にある「海馬」という両耳の奥あたりにある領域にメモのような形で記憶が一時的に保管されます。
海馬の記憶容量は限られているので、時間でいうと5分くらいで記憶の情報が更新されてしまいます。
情報はどんどん整理整頓され、本当に必要な情報だけが大容量の大脳皮質に伝えられ、長期記憶として定着します
そして、それ以外の不要とされた記憶は消去されます。

パソコンでたとえると海馬はメモリー、大脳皮質はハードディスクとなります。
短期記憶を伸ばす、ということはメモリーである海馬を鍛えて「頭にしばらく置いておける力」をつけるということです。

「聞く力」は聞いたことを翻訳する力

学習する際に情報を取り込み、知識として蓄えていくときに最も重要なのは「聞く力」です。
聞く力とは聴力ではなく、聞いた情報を脳内で処理する力のことです。
音声情報が海馬に届いたとき、意味を持つ情報へ「翻訳」されてから記憶されます。しかし翻訳されずに流れてしまうと、不要な情報として消去されてしまいます。

たとえば子どもに「脱いだ靴下を洗濯カゴに入れたら、机の上を片付けて、学校でもらったプリントを出してね」と用件を3つ伝えたとします。子どもは「は〜い」と返事をするものの多くの場合、そのうちのひとつを忘れてしまいます。
言葉そのものが理解できないのではなく、情報が意味を持ち、理解される前に消去されてしまうのです。

学習の場合でも問題をひと通り説明したあと、「わかった?」と聞くと「わかった」と答える子は多いのですが、10秒後に同じ質問をすると的外れな答えが返ってくることがあります。

言葉にかぎらず、数字でも同じです。理数系が得意な子は数字を10秒くらいの間、頭に一時保存しておけるのですが、苦手な子は数字情報が増えるとともに記憶から数字が飛んでしまいます。
入った情報が意味を持って記憶されるためにも、聞いた言葉が正しく翻訳されることは大切です。

学力に立ちはだかる壁

4年生になると、学力に立ちはだかるいくつかの壁が現れます。

9歳の壁

小学生3年くらいまでは、お子さんたちの学校でのテストの結果は似たようなものが多く、点数もそこまで差がありません。
親もその時点ではあまり学力差を感じないため、悩むことも少ないでしょう。
しかし9歳(4年生)になると算数では分数や小数点、国語では説明文が登場します。
この9歳の壁を乗り越えていく子、そして壁の前で立ち止まってしまう子が出てきます。

3行の壁

小学4年生以降になると、「3行の壁」が出てきます。
文章題が3行以上になって問題が解けなくなってしまう子が増えるのです。問題文が長い、というだけで難しくなったわけではありません。
単純に問題の中で条件がひとつ増えたり、「花子さんが」という前に装飾語として「2センチ背が高い」といった言葉が付け加えられます。
文字数にすると100字くらいを超えたくらいで短期記憶の容量オーバーになり、理解できなくなってしまう場合があります。

最近の中学入試では「主人公はどういう気持ちだったか」ではなく「気持ちにどのような変化があったか」という問題が増えています。
気持ちの変化を問われた場合、文章の一部を読んだだけではわかりません。
全体を通して登場人物の気持ちがどう移り変わったのかを把握する必要があります。
文章の隣にぼう線を引きながら読む、という方法もありますが、短期記憶の容量が小さい場合、その線を引いた理由や引いたこと自体までも忘れてしまう、ということがあるのです。

短期記憶を伸ばす方法

最近は親の過干渉によって子どもが実際に経験したり、失敗から学んで工夫することが少なくなってきています。
「これをやりなさい」と言われ、それが終わったら「次はこれをやっておきなさい」と親に指示されることが増えています。
塾の勉強となるとやることが多く、ますますこの傾向が顕著になってしまいます。
このようにいちいち指示をされると、子どもは考えることをせず、親のいう通りに行動するだけになってしまいます。それでは脳は活性化されません。

子どもは必要に迫られなければ、「こうやってみよう」という思考をなかなか始めません。
「なぜだろう?」という思考習慣は遊びの中や、家のお手伝いなど、日常生活の中で起こることです。
花を枯らせてしまったり、ゆで卵はすぐに水につけないときれいにむけなかったり、と日常の中で生まれる失敗に対し、やっと思考のエンジンが稼動します。
子どもが自分で考えて行動するためにも、親が指示を控えめにすることが大切です。

首都圏の麻布、渋谷幕張、栄光、関西の灘、甲陽学院などでは毎年、進学塾でも習わない、小学6年生ではまず知らないであろうと思われるようなテーマが受験問題として取り上げられています。

たとえば「プレートテクトニクス理論(大陸移動説)」に関する出題があったとします。
まず説明文があり、それを読んだ子どもたちはやっとそこで「そうなんだ〜」と初めて説明にあった情報に触れます。

このような高度なテーマの出題は「初めて知るような内容でも、説明文をしっかり読めば過去の自分の経験につなげ、理解できるはずだ」という子に入ってきてほしいという意図で作成されています。
そして合格できる子は、このような問題もしっかりと答えられています。
知らない情報の問題でもひるまず向き合うためには、「どうしてだろう?」と興味を持ち、自分の経験とつなぎ合わせるような思考の習慣が必要です。

どの教科の学習においても短期記憶は重要です。
短期記憶が頭の中できちんと置かれるためにも、耳からの情報に意味を持たせる「翻訳」がされなければいけません。
4年生以降の学習、特に中学受験の勉強は9歳の壁や3行の壁などによって学力に差が出やすくなりますが、子どもが自ら考えて行動できるように指示をひかえ、どのようなことにも興味を持って「どうしてだろう?」と思考をする習慣を普段からつけ、短期記憶を伸ばしたいですね。

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