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【保存版】中学受験 低学年のうちにやっておきたい11のこと

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公開: 最終更新日:2021年07月21日
低学年のうちにやっておきたい11のこと

Point1 普通の子どもに早期教育はかえって害になる

3大手進学塾の低学年講座はあまり意味がない

一般的に中学受験の勉強は、大手進学塾の4年生のカリキュラムがスタートする3年生の2月から始まります。大手進学塾に通うには、その受講資格となる入塾テストを受けなければなりません。入塾テストの対策は3年生の秋頃から始めるのが理想です。ところが、なかには1年生のうちから大手進学塾に通わせているご家庭もあります。

中学受験塾で知られる大手進学塾の多くでは、小学1年生からの講座が用意されています。しかし、その中身は、いわゆる「先取り学習」とは違い、小学校受験の延長上にあるような問題が多く、中学受験の勉強につながるようなものではありません。

例えば、算数なら図形が多く、パズルとしては結構難しいものに挑戦します。小学校の算数では、数量関連で習っているものがまだ少ないため、図形以外の問題が多く作れないためでしょう。お子さんがそれに楽しく取り組んでいればいいのですが、一方で大手進学塾では1年生のクラスでも成績表があり、偏差値も出ます。わずか6歳の段階から、成績順によってクラスが上がったり下がったりするのは、さすがに早すぎるように思います。

こうした塾に通うことで出やすい弊害は、まず親が非常に早い時期から子どもの良さを成績で判断するようになってしまうことです。お子さんが楽しく勉強に向かい、いつもトップクラスにいるのならいいでしょう。しかし、そんな子はクラスに一人、二人いるかです。「へぇ~、世の中にはすごい子がいるのねぇ」と、お子さんと比較せず笑っていられる親御さんならいいのですが、わが子のこととなるとそうはいかないでしょう。

実際に「できる子」を目の当たりにすると、多くの親御さんは不安や焦りを感じてしまうものです。そして、「もっと頑張りなさい」「なんでできないの?」と親御さんのイライラを子どもにぶつけてしまうようになります。そうなってしまったら、子どもにとって勉強は「つらいもの」になってしまいます。そして、一度そう感じてしまったら、「勉強好き」にするのは、とても難しくなります。ですから、この時期から塾に行かせることをおすすめしないのです。

勉強系の早期英才教育は要注意!

中学受験をする、しないに限らず、”わが子の将来のために”と、就学前から「早期英才教育」に走る家庭もあります。早期英才教育は文字や数に関する勉強系のものから、英語、音楽、スポーツなど分野はさまざまです。確かに、ある種のスポーツや音楽は、早い時期から始めた方が、プレイヤーとしては有利になる場合もあります。お子さんが嫌がらず、楽しく取り組んでいるようでしたら、お子さんの才能を高めてあげることは決して悪いことではありません。

しかし、なかには子どものためにならない早期英才教育があります。それは勉強に関するものです。

子どもの脳は、小さいときほど吸収力も順応性も高いと言われています。であれば、早い段階から勉強をさせておけば、「優秀な子」になるのではないか、あとあと「有利」になるのではないかと考え、さまざまな学習教室に入れる親御さんがいます。実際、教え方を工夫すれば、就学前に小学1、2年生で教える内容を理解させることは不可能ではありません。就学前から公文式やそろばん教室に通わせることも、やり方によっては効果的です。

しかし、乳児・幼児向けの早期教育でよく行われる、高速でカードを見せて答えさせる教育や速読には、疑問を感じるものもあります。カードめくりは、例えば世界の国旗のイラストなどを描いた数十枚のカードをものすごいスピードで次々にめくりながら子どもに見せ、同時に国名を読み上げていき、それを繰り返すうちに全部覚えてしまうというもの。乳幼児が早く言葉を覚える、記憶力がよくなる、脳が活性化するなど、効果とされる謳い文句はいろいろありますが、実際その効果を証明するものはなく、それをやることで「頭が良くなる」とか「記憶力が上がる」かどうかは別物だと思います。むしろ、子どもの集中力が散漫になった、衝動性が高くなり、自己制御力が下がる傾向にあるなどの調査結果も出ており、選択には十分な検討が必要です。

中学受験に求められるのはスピードよりも試行錯誤

中学受験を目指すご家庭の多くは、お子さんの教育にとても熱心です。そのため、乳幼児期にこのような高速系の学習をやらせた経験があるというケースは少なくありません。しかし、こうした経験をしている子どもの多くに、「カンはいいけれど、落ち着いて考えられない」ケースがよく見られます。つまり、スピードばかりに気を取られ、問題を一目見て「あっ、これはこうやればいいんだ」とすぐに解こうとしてしまうのです。

低学年のうちは、問題も単純なのでカンで解けてしまうことが多いのですが、学年が上がり、問題の難易度も上がってくると、カンだけでは解けません。自分の手を動かしながら「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤を繰り返して解法を模索し、解答に行き着くことが大切になります。それには、集中力や持久力、柔軟性や応用力といった力が求められます。

しかし、早期英才教育で鍛える「高速」「反射」「反復」では、その力を伸ばすことはできません。むしろ、スピードばかりに気が向かい、物事をじっくり考えることができず、生涯の学習に必要な知的好奇心や探求心を阻害してしまう恐れがあります。

「この問題は難しそうだな。でも、あれとあれを使えば解けるかもしれないぞ。それともあっちかな。よし、頑張って解いてみるぞ!」

好奇心を持って考え、それが「理解できた」ときの喜びは、何よりも嬉しいものです。この「わかったときの喜び」を知ると、子どもは「勉強は楽しい」と思うようになり、継続的に学習を続ける意欲が沸きます。逆にそれを知らないと、勉強はただ苦痛なものになってしまうのです。

後でも詳しく説明をしますが、子どもの幸せを本当に願うのであれば、決して急がず、子どもの自然な成長に合わせたことを十分にしてあげて欲しいのです。

小学校の低学年までは、「受験のときに有利になるから」といったことを考える必要はまったくありません。この時期は、何よりも親子で楽しく過ごすことが大切であり、日々の生活や自然の中で、生きていくために必要な力となる土台を育んであげて欲しいと思います。

Point2 乳幼児期の五感を使った遊びが学力の基礎になる

幼児期に大切なのは五感を使った遊び

近年、少子化が進み、子どもひとりに対する期待が高まる中、未就学児のときからすでに「中学受験をする」と決めているご家庭が少なからずいます。こうしたご家庭は教育熱心ですから、早い段階から英才教育にのめり込んでしまうケースが多く見受けられます。しかし、前に述べたように、中学受験をするからといって、未就学児のときから勉強をさせる必要はありません。この時期は、子どもの自然な成長に合わせ、親子で触れ合うことが何よりも大切だからです。

子どもにとって、「遊び」は生活の一部です。乳児から幼児までは、とにかくいっぱい遊ばせましょう。この時期は子どもの五感を育むことが大切で、実はそれが後に学力の基礎になるからです。

では、どんな遊びをするとよいのでしょう?

個人差はありますが、理想的なのはそれぞれの時期に一番ふさわしい遊びをすることです。よく育児本などには月齢や年齢ごとに適した遊びが紹介されていますが、必ずしもその通りでなくても構いません。むしろ、月齢や年齢で判断をするより、子どもの様子をよく観察して、興味を示すものを見つけてみるといいでしょう。

先を急がず、その子の成長に合わせた遊びをさせて

一般的には、1~2歳はいろいろなことを教えてもまだ記憶に残らないので、体を使った遊びを親子で楽しむといいでしょう。そのとき、声をかけたり、笑ったりして、お母さんが楽しそうにしていると、子どもは喜びます。なかには積み木が上手にできる子もいますが、それは個人差。できないからといって、焦る必要はありません。

1歳半~2歳になると、お絵かきに興味を持つ子がでてきます。ただこの時期はまだ似せて描くことまではできませんので、子どもがやりたいように自由に描かせましょう。このとき、部屋や服が汚れるからといって、注意ばかりしないこと。お母さんがイライラしていると、子どもは萎縮して思いっきり描くことができなくなってしまいます。逆にお母さんが、「わー、すごい。これはおもしろいね」と褒めたり、驚いてあげたりすると、子どもは得意になり、もっと描きたいと思うようになり、発想力を育むことができます。

2歳になると、記憶力が発達し、ものの名前を覚えるようになります。無理に覚えさせる必要はありませんが、公園にいる植物や虫、動物などに実際に触れる機会を増やし、「この蝶々、きれいな色をしているね」と会話の中でものの名前や特徴を教えてあげられるといいですしょう。この時期の親子の触れ合いが、視覚や聴覚、触覚、嗅覚として記憶に残ります。

3歳になると、子どもはかなり話ができるようになります。なにかのマネをする「ごっこ遊び」や、実際に見た物をなるべく同じように再現する「構造遊び」ができるようになります。例えば、積み木などで線路をつくって、電車を走らせるマネをしたりするようになります。ただこの時期は説明通りに何かを作ることまではまだできません。好きなものを作らせるという遊びがいいでしょう。

4歳になると身体能力が向上してくるので、積極的に体を動かす遊びを取り入れましょう。ごく簡単なルールも理解できるようになるので、「右手を上げたら、ジャンプ1回。左手を上げたら、ジャンプを2回」など、簡単なゲーム遊びをするのもいいですし、公園で思いっきり駆け回ったり、休みの日には海や山などの自然に触れさせたりするのもいいでしょう。そのときも、ただ遊ばせるのではなく、「海の風は気持ちいいね」「この花はなんていう名前か知っている?」など、親が積極的に声かけをしてあげることをおすすめします。こうしたちょっとした声かけが、実はのちの勉強につながっていくからです。

5歳になると、いわゆる「情操教育」といわれるものも有効になります。ミュージカル、美術鑑賞、音楽鑑賞なども、5歳になればある程度は理解できるようになります。ミュージカルなどを楽しむには、喜び、悲しみ、怒り、せつなさ、といった人間の感情を理解し、他者の思いを読み取る感覚が必要です。5歳ではまだ物事を客観的に見る力は不十分ですが、こうした機会を少しずつ増やしてあげるのはいいことだと思います。

このように乳幼児期は、遊びを通して五感を養うことが大事なのです。この時期にこうした遊びをせず、勉強系のことばかりさせてもあまり意味がありません。むしろ、それは弊害になりかねません。

子育てに”駆け足”は禁物です。その時期の成長に合った遊びを、親子で一緒に楽しみましょう。

Point3 日常のあらゆる機会が身体感覚を養う

キッチンは子どもを伸ばす「タネ」の宝庫

幼少時期の子どもは、遊び同様に、日常生活のあらゆる場面を通じて身体感覚を育んでいきます。

その最適な場所がキッチンです。お母さんは毎日、キッチンに立って食事の支度をすると思いますが、そのとき、お子さんはどこにいますか? 「危ないからキッチンに入らないで」とテレビを観させていませんか? 確かに急いで支度をしているときに、子どもにまとわりつかれては、なかなか作業が進まないし、危険と感じることもあるかもしれません。でもキッチンは、子どもにとって経験と知恵を養う最高の場所なのです。

キッチンで野菜や果物、魚や肉などを手に触れ、実際に洗ったり、切ったり、調理をしたりするなどお手伝いをする中で、子どもは実にさまざまな知識を得ることができます。

例えば、野菜を切ったときの断面図でものの形や見方を知り、野菜には水に浮くものと沈むものがあることを知り、水よりお湯の方が砂糖が溶けやすいことを知り、塩をかけると野菜から水が出て小さくなることを知ります。また、魚をさばくのを見ていれば、体内の構造も自然に覚えます。温度を上げると溶けるものと、固まるものがあることも知るでしょう。

これらは生活常識であると同時に、まさに理科で習うことでもあります。キッチンでこうした経験ができるかどうか、身体感覚として身に付いているかどうかは、今後の学習で大きな差になります。

だからといって、「勉強の役に立つから覚えなさい!」では、子どものやる気は失せてしまうでしょう。大事なのは親子で楽しくやること。そのためには、ところどころで、「卵は熱くするとだんだん固まっていくんだよ」「何分くらい茹でるといいかな?」など声かけをし、子どもが興味を持つように促してあげてください。そうやって身体で理解できれば、自分の知識として残るはずです。

スーパーで算数と社会の基礎を築く

日々の買い物もとてもいい体験の場です。例えば、スーパーに買い物へ行ったとき、「このぶどうは山梨から来ているんだって」「あ、こっちのぶどうも山梨から来ている!」「山梨ではぶどうがたくさん獲れるんだね。」など、子どもに話しかけるだけでもいいと思います。もし、子どもが「山梨ってどこだっけ?」と興味を示したら、あとで一緒に地図を見て教えてあげるといいでしょう。将来、社会の授業で初めて「ぶどうの生産量が一番多いのは山梨県」と言葉で習ったとき、ずっと楽しく自然に知識が身に付くことでしょう。

買い物では、値段の違いやお釣りのやりとり、セールの日や「割引クーポン」なども学びのタネになります。低学年の子どもに「%」や「○割」の意味を無理に教える必要はありませんが、クーポンをためると割引になることや、「たくさん買うと1個あたりの値段が安くなる」といった経験を肌感覚で覚えていると、自然と割合の意味が理解できるようになります。

低学年のうちは、「十円玉が10個で100円」「百円玉で60円の買い物をすると、お釣りは10円玉が4つになる」といったことを自然に学ばせましょう。子どもはお金をくずすと硬貨の数が増えるので喜んだりします。「十円玉10個と、百円玉1個は同じ」ということを理解できるようになれば、これがのちに学ぶ十進法の基礎になります。

このように、日常生活のあらゆる場面で、これから学習する勉強の土台を築くことができるのです。

Point4 成績に直結する鉛筆のもち方

鉛筆の正しい持ち方は親が教える

低学年の学習で大切なのは、宿題であれ、ドリルであれ、早く終えることを目的にせず、じっくり丁寧に向き合いながら進めていくことです。そのためにまずやっておきたいのが、「鉛筆の持ち方」と「正しい姿勢」を身につけさせること。幼児がクレヨンを握って、画用紙にぐるぐると線を描き始めるころは、まだ気にする必要はありませんが、小学生になって字を書く段階になったら、正しい鉛筆の持ち方をきちんと教えてあげましょう。

お箸の使い方は鉛筆を持つこと以上に難しいため、市販でも子供用に親指が入る輪がついたトレーニング箸があったりして、親も持ち方をきちんと教えようとします。また、習字を習い始めるときも、まずは正しい筆の持ち方というのを教えられます。しかし、なぜか鉛筆に限っては、自己流でも「書けているならいい」「本人が書きやすければいい」となりがちです。

正しい鉛筆の持ち方をしていないと、姿勢が悪くなり、疲れやすくなるし、視力にも影響が出ます。指の力の入り具合によって、筆圧が弱くなったり、力が入りすぎて鉛筆の芯が何度も折れてしまったりもします。また、姿勢が悪いと字が斜めになってしまったりして、きれいな字を書くことができません。字が下手というのは、相手が読みにくいというだけでなく、実は本人にとっても大きなデメリットがあります。

というのも、鉛筆の持ち方は、学習の能率にとても大きく影響するからです。

あなどれない鉛筆の持ち方

低学年のうちは、字が下手だからといって、すぐに成績に影響するわけではありませんが、勉強が高度になると悪影響が出てきたり、不利になったりすることが多々あります。

例えば、親指を握り込むような持ち方をする子。持ち方が悪いと、手や指が疲れやすく、長い文章を書くことを嫌がります。これは、中学受験の記述式問題の練習ではとても不利です。また、字を書くときに姿勢が悪いと、自分が書いたばかりの文字が見えにくく、ノートを無理に傾けるようになり、その結果どんどん算数の式の行頭が右に寄っていく、ということも起こります。

持ち方が正しくても、とにかく速く書くという癖がついてしまうのも要注意です。当然文字は雑になり、算数の筆算で数字がずれてしまい、計算ミスをしてしまうなど、悔しい間違えをしてしまうことも。また、テストや演習問題の見直しをするとき、自分の書いた文字や数字が雑すぎて読めずに読み間違えることが多く、どこで間違えたかがわからず最初からやり直すことになり、時間がかかってしまうなどの問題点も。こうしたことはすべて成績に影響してしまいます。

鉛筆を持ち始めたら、最初はやわらかい芯のものを使い、正しい持ち方を教えてあげましょう。背中を丸めずに書く、ノートから目を30cm離すなど、姿勢にも注意しましょう。悪い姿勢はすぐ癖になってしまうので、初めが肝心です。ただし、厳しく注意しすぎないようにすること。最初から文字の書き方を教えるのではなく、まずはまっすぐ線を引く練習、ぐるぐると渦巻きをかく練習、波型や円を描く練習などを、親子で一緒に楽しみながらやってみましょう。

Point5 リビング学習はなぜいいのか?

小学生に勉強部屋はいらない

小学校に入学すると、多くのご家庭では子ども部屋を用意しなければと考えます。そして、「子ども部屋」=「勉強部屋」と想定し、学習机を購入します。

けれども、小学1年生の子どもが、自分の部屋で果たして一人で勉強ができるでしょうか?

幼児期(それもついこの間のことです)、お子さんはお絵かきをするとき、どこでやっていましたか? おそらく、リビングやダイニングテーブルなどで、お母さんと一緒に描いていたはずです。なかには一人で黙々と絵を描く子もいますが、それでもその子のそばにはお母さんがいたはずです。

それはなぜでしょう?
子どもはお母さんに「うまく描けたね」「これは何を描いているのかな?」など、声をかけて欲しいからです。

その気持ちは勉強でも同じです。学校の宿題で出た音読はお母さんに聞いてもらいたいし、分からないところは、お母さんにすぐに聞ける場所で勉強をしたいと思っているのです。

そこでおすすめしたいのが「リビング学習」です。勉強も、お絵かきと同じように家のリビングやダイニングなど、家族が過ごす場所でするのが一番。「それだと、集中できないのでは?」と思う親御さんもいるかもしれませんが、むしろおもちゃやマンガなどの誘惑が多く、親の目が行き届かない子ども部屋よりも集中でき、能率は上がります。

何か困っていることがあったら、気づいてあげられる距離が大事

リビング学習は、小学1年生になってからの「初めての宿題」から「中学受験」の本格的な勉強に至るまで、小学生の間はずっと続けて欲しいと思います。なぜなら、リビング学習にはさまざまなメリットがあるからです。

リビングやダイニングのテーブルは、学習机よりも広く、辞書や図鑑を広げたり、大きな地図を広げたりすることができます。また、いつも付きっきりでなくても、お母さんが近くで家事をしたり、本を読んだりしながら、子どもの様子を見たり、声をかけてあげることができます。実はこの距離感がとても大事なのです。

多くのご家庭では、小学1年生の段階では、子どもがしっかり宿題をしているか見てあげたり、分からないところは教えてあげたりします。ところが、学年が上がるにつれて、「宿題はやって当たり前」「勉強は自分でするもの」と子ども任せになってしまいます。そして、子どもは分からないままでいたり、とにかく宿題を終わらせればいいと思うようになったりします。これが、勉強のつまずきの始まりです。

でも、それは親のちょっとした声かけや心がけで回避することができます。親が子どもの勉強をすべて見る必要はありませんが、何か困っているときに気づいてあげられる距離は大事です。お母さんがカウンターの向こうで夕飯の準備をしていて、ダイニングテーブルでお子さんが勉強をする。こうした距離感が子どもを安心させ、集中力を高めます。

Point6 すべての教科に好影響を与える「音読」の効果

音読はなぜいいのか?

小学生になると、学校の宿題で「音読」がよく出題されます。音読は、文章を声に出して読むことです。それにどんな効果があるの?と思う親御さんもいるかもしれませんが、音読は国語のみならず、実はさまざまな教科でとても役立つものです。

低学年のうちは、音読が上手にできない子もいます。でも、いくらたどたどしくても、つっかえても先を急がせず、また、あまり細かく間違いを指摘せず、聞いてあげてください。音読は低学年の宿題と思っている方もいるかもしれませんが、中学年、高学年、いえ中学生、高校生でもぜひ続けて欲しい習慣です。

音読の効果は、声に出すことで、子どもは日本語のリズムを体で知り、全身で書かれたものを受け止めることができます。読み方を工夫することで、書かれている情景や心情を理解することにもつながりますし、どこで区切るかを考えたりすることで、文章の論理的な構造を理解することができます。

また、スムーズに音読をするには、読みながら同時にその先を目で追う必要があり、それによって周辺視野を意識する力が鍛えられます。意識を一点だけに向けるのではなく、その周囲の情報も視覚から取り入れられるようになるということです。こうした力は国語のみならず、全科目の力を大きく伸ばします。

音読は国語以外の教科でも武器になる

算数の文章問題が苦手という子は多くいますが、そのほとんどが問題文を読んでいるようで、あまり読めていません。算数の文章問題を苦手とする子に対し、「3行の壁」という言葉があります。文章問題の問題文が3行を超えると、途端にできなくなってしまうという事態を指します。内容以前に、3行以上あるだけで頭が拒否反応を起こし、「無理!」「できる気がしない」と感じて手を付けることすらしなくなってしまうのです。

ところが、こうした子に「声を出して問題文をゆっくり読んでごらん」とうながすと、半分以上の子は問題文を音読しただけで「あっ、わかった!」と自分で解けてしまいます。小学校低学年のうちから音読の習慣があると、この「3行の壁」は難なくクリアすることができるでしょう。

音読の効果は、理科や社会でもあります。多くの親御さんが、中学受験における理科と社会は、暗記だけで乗り切れると思っています。もちろん暗記すべき事柄もありますが、今の中学受験の問題を見ると、「これって国語の問題?」と思うほど、長い問題文が並びます。文章を読むことに慣れていない子は、その長さを見ただけでひるんでしまい、たとえ知識があっても、その問題に答えるまで到達できません。それはとてももったいないことです。

子どもはまず「音読」をはじめて、やがて「黙読」ができるようになります。音読の効果は先にお伝えしましたが、音読を続けていると、黙読時の読解力も高くなっていきます。語感が鋭くなり、文節での理解ができるようになって、助詞の使い方も正確にわかるようになるのです。音読はこうした「日本語力」「国語力」を鍛えます。

「国語力」のある子は、問題を正確に読み解くことができます。先に述べた算数の文章問題、中学受験の理科・社会の長文問題を読み解くにもとても役立ちます。つまり、音読はすべての教科において有効な学習法なのです。

音読には2つの読み方がある

ところで、音読には2つの読み方があります。ひとつは「普通の音読」、もうひとつは「速音読」です。普通の音読は、内容に合わせて読む速度に緩急や強弱をつけ、抑揚に注意して読み進めていきます。一方、速音読はあまり抑揚をつけず、なるべくスピードを上げて、文字や行を飛ばさないように正しく読むことに注意を払います。

童話や物語文、文学作品などは、普通の音読で感情を込めて読みましょう。山の描写なら、木々の音や匂い、そこから広がる情景を想像しながら、また主人公の気持ちを考えながら読むことが大切です。「情景」と「心情」はしばしば結びついた形で描かれています。そこを味わい、理解できるかどうかが、実は中学受験の国語では大きなポイントになります。

また、文章に書かれている内容を頭の中で情景として思い浮かべることができる子は、算数、理科、社会などの問題文の理解もしやすくなります。例えば「コップに入っている水のうち、20mlを別のコップに移す」という説明があった場合、その「コップに入っている様子」をすぐに思い浮かべることができるかどうかは、非常に大きな差になります。

説明を読みながら、自分の実際の体験、過去の記憶などを映像として呼び出せる力がなければ、算数や理科、社会の問題文も十分に理解することができません。音読にはこうした想像力を伸ばす効果があります。音読しながら情景を想像し、文章を味わう経験を積み重ねると、黙読でもそれが当たり前のようにできるようになります。

一方の速音読は、新聞や説明的な科学読み物などの文章を読むときにおすすめです。速く正確に読む練習をすることで、言語の処理能力を上げ、先の行を読む目の動きを鍛えます。前に伝えましたが、今の中学受験の入試問題はとても長文です。国語をはじめとする各教科において「情景を想像しながら読む」ことは大切ですが、一方でスピーディに読み進めていかなければ、時間が足りず解答欄を埋めることができません。

音読には「普通の音読」と「速音読」がありますが、中学受験ではそのどちらも大事で、この2つの組み合わせを身に付けておくことがベストなのです。

だからといって、「音読、音読」と躍起になるのはよくありません。低学年のうちは、たとえうまく読めなくても叱ったりしないこと。宿題にこだわらず、「今日はこの本を読んでみようか」と親子で楽しみながら取り組んでみましょう。

Point7 子どもの学力に影響を与える親子の会話

「てにをは」をきちんと使い、正しい日本語を教える

先に、低学年のうちから中学受験を検討していても、早期教育をする必要はないとお伝えしました。それよりも、幼少期は、生活や遊びを通じて学力の土台を作ることが大切だからです。

それともうひとつ大切なことがあります。それは、親子の会話です。

赤ちゃんの頃は、「ほら、ワンワンだよ」「はーい、ごはん」など、大人も「赤ちゃん言葉」で話してしまうことがあります。その時期にそれはいいのですが、子どもの言葉が増えてきて、「ママ、抱っこ」「おなか、すいた」といった二語文を話すようになったら、少しずつお母さんは子どもに正確な言葉をかけるように意識しましょう。

今の時代は核家族が多く、相手の名前を呼ばなくても、多くを説明しなくても、家庭内では通じてしまうものです。「ねぇ、お茶」「早く、お風呂!」・・・気がつくと親子で二語文会話になっていませんか?

私たちは、日頃の会話で、つい人名代名詞や目的語、助詞などを適当に省いて話してしまうことがあります。家族や友人なら通じるかもしれません。しかし、私たちは親しい人とだけ会話をするわけではありません。どんな相手にも伝わるためには、正しい日本語を身に付けておかなければなりません。ですから、言葉を覚える段階の幼少期に、親は子どもにしっかり正しい日本語を教えて欲しいのです。

子どもの語彙力を伸ばすのは、親の声かけ次第

難しい言葉を使う必要はありません。「○○ちゃん、今日はお昼を食べた後に、何をして遊びたい?」「今日は学校で何が一番楽しかった?」と、なるべく「助詞」を使って話してください。子どもの答えが単純な単語だけだったとしても、それを無理に直す必要はありません。まず、お母さん自身が「てにをは」をきちんと使って話しかけるだけでいいのです。

また、身の回りにあるものの名前をどんどん伝えてあげましょう。子どもは誰かの言葉を通じてそのものの名前や存在を知ります。例えば、都会ではもうあまり見ることのできない「瓦」や「縁側」などといった言葉は、田舎のおばあちゃんの家に行ったときなどに、「これはね、瓦といって、昔の家の屋根はみんなこれで作られていたんだよ」と言葉にして伝えてあげるといいですね。実体験に基づいた単語は、子どもはすぐに覚えてしまい、自身の語彙になります。それは将来、国語の文章題や漢字の問題などで活きてきます。

お母さんの気持ちは言葉で伝えて

さらに、思ったことを言葉にすることも大切です。幼児期の自然体験や観察は、理科への興味を広げる効果があります。だからといって、「これを観察しなさい」「これは中学受験の入試に出るから、覚えておきなさい」と言われては、子どもは楽しむどころではありません。

そもそも自然に目目を向けることは、学力を伸ばすためではありません。身近な自然から花や葉、雲の形、季節の移り変わりを感じ、それが興味・関心につながって、学ぶ意欲を育むのです。それには、お母さん自身が自然に興味を持たなければ、子どもには伝わりません。

「ねぇ、見て! 今日の雲、おもしろい形をしているね。雲ってどうして、いろいろな形をしているんだろうね?」など、お母さんが感じたことを言葉にすると、子どもは一緒になって興味を持つようになります。

こうした声かけは気持ちを伝えるときも意識しましょう。例えば、子どもがお手伝いをしてくれたとき、「お母さんはあなたがお手伝いしてくれて、すごく助かったわ。ありがとうね」と感謝の気持ちを伝えたり、「さっきは少し怒りすぎちゃったわ。ごめんね。でも、お母さんはあなたならきっとできると思うの」といったようにお母さんの素直な気持ちを伝えてあげたりすると、人の気持ちを理解できる子になります。

このように、正しい日本語も、語彙も、気持ちも、言葉にして伝えてあげることが大事なのです。そして、それはのちに国語で力を発揮することでしょう。また、親の声かけによって、さまざまなことに興味関心を持ち、理科や社会を得意分野にすることもできます。

Point8 計算力を鍛えるなら「公文式」は有効

中学受験前の計算学習に公文式はおすすめ

幼児や低学年に人気の学習教室に「公文式」があります。公文式は、もともとは小学生向けの算数のプリントから始まり、その後、国語、英語と教科を増やしていきました。対象は0歳から大人まで。就学前の幼児期に入会して、小学校3年生くらいまで続けるといったケースが多いようです。

学年ごとに同じものを学習させるのではなく、本人の学力に合わせて次々にプリントを渡していく方式で、学年で習う内容を超えてどんどん進む子もいるし、理解が遅いようなら少し戻って学習することもできます。週2回、家の近くの教室に通い、教室のない日には宿題が渡されます。

算数の計算問題というのは、早めに始めてトレーニングをすれば、計算力は確実に付きます。また、毎日取り組むことで、学習の習慣化を確立することができます。そういう点では、中学受験の勉強が始まる前の学習教室としては有効です。

やり方を間違えるとその効果は半減

ただし、公文式は「基本的な部分をしっかりやって身に付ける」ことが基本スタンスですから、「問題が面白い」「理解できた喜びがある」と過度に期待することはできません。そのため、長く続けていくうちに飽きてしまう子が出てきます。

また、親も慣れていくうちに、宿題をきちんとやっていればいいと思ってしまいがちです。公文式は子どもの学力レベルに合わせた問題を解かせるため、極端に難しい問題が出ててこずることはありません。そのため、親にとっては「子どもが勝手にやってくれるラクな学習法」なのです。

しかし、問題の意味をよく理解せず、どんどんスピードを上げて速く進めばいい、というやり方になると、続ける意味がなくなります。また、宿題を適当に片付けてしまうようになると、効果はありません。

もし、お子さんが今、低学年で公文式に通っている場合は、宿題をするときにきちんと付き添い、文字を丁寧に書いているか、一問ずつしっかり解こうとしているかを見てください。「簡単だからすぐ終わる!」となぐり書きで答えを書いているようだと、公文式の効果はまったく期待できません。

Point9 低学年の夏休み 先取り学習よりも本物の体験を

美術館や博物館は親のリアクションが大事

中学受験を始めると、夏休みは各塾で夏期講習が実施され、それに参加することになります。4年生のうちは日数も短く、それほど負担はありませんが、6年生になるとそれに志望校特訓なども加わり、まさに勉強漬けの日々になります。

けれども、低学年のうちは、たとえその先、中学受験を考えていたとしても、先取り学習をする必要はありません。それよりも、この時期にしかできないいろいろなことを体験させてあげる方が大切です。

夏休みは、子どもにさまざまな体験をさせてあげる絶好のチャンスです。せっかくの休みだから、どこかへ連れて行ってあげたい、と思う親御さんは多くいますが、どこかへ連れて行くことにそこまでこだわる必要はありません。大切なのは、体験の共有です。例えば、親子で一緒に自由研究に取り組んだり、夕飯を一緒に作ったりするなどでもいいでしょう。

でも、もしも時間に余裕があるのであれば、美術館や博物館などに連れて行ってあげるといいですね。

でも、ただ連れて行くことに満足してはいけません。美術館や博物館に行くときは、親子で事前に下調べをしておき、「これは絶対見たいよね!」など、展示物に対する意識を前もって高めておくといいでしょう。また、実際に訪れたら、気になる展示物の説明を子どもと一緒に読んでみましょう。そのときに、ただ黙って読むのではなく、「なるほど、そうなんだ~」「へぇ~、これはすごいね!」など、親が面白がって見ると、子どもも親を真似して面白がって見るようになります。逆に親が無関心だと、子どもも無関心になってしまう・・・。それでは、連れて行く意味がありません。

大事なのは親のリアクションです。美術館や博物館に行くことは、めずらしいものや貴重なものを見られるというだけでなく、「新しい知識を得ることは楽しいことなんだ!」と子どもに教えてあげられる絶好の機会なのです。そして、それは子どもの学習意欲へとつながっていきます。

キャンプは”本物”に触れられる絶好のチャンス

一方、親と離れることで得られる体験もあります。例えば、子どもだけで参加するキャンプもおすすめです。インターネットで「夏休み 子どもキャンプ」などのキーワードで検索をすると、春頃からいろいろな機関で募集をしています。海、川、山、田舎暮らしなど、さまざまなプログラムがありますので、ご参考にしてみてください。

キャンプは自然に触れられるよいチャンスです。動物、虫、魚、花、大木など、”本物”を見て、触って体験することは、低学年の子どもにとってとてもよい経験になります。また、親から離れて共同生活をすることで、自分とは違う考え方を持つ人がいることを知ります。家族ではなんとなく通じてしまうことも、他人にはちゃんと言葉で話さなければ相手には伝わりません。いつもと違う環境は、考える力を付けさせ、子どもを成長させます。

親子の会話で身体感覚を伸ばす

夏休みは、さまざまな体験をさせてあげる一方で、日常の生活も大切にして欲しいと思います。特に親子の会話は大切です。

とはいえ、今増えている共働き世帯は、一日中一緒に過ごせるわけではありません。でも、大丈夫。朝と夜の時間だけでも十分に会話はできます。

特に朝時間の有効活用がおすすめです。例えば、お子さんと一緒に散歩をしてみてはいかがでしょうか? 散歩というのは、相手の歩調に合わせながら横に並んで歩くものです。実はこの「横に並ぶ」というのが、親子のコミュニケーションにはとてもいいのです。

忙しい日常の中では、なかなか子どもとゆっくり話すことができません。子どもの顔を見ればつい「早く宿題をしなさい!」「いつまでテレビを観ているの!」などと叱ってばかり・・・。そううときは大抵、子どもと向かい合っているか、何かをしながら言っていませんか?

でも、横に並ぶとなぜかゆったりとした気持ちになれるものです。並んで歩くことで、心にゆとりが生まれ、まわりの景色にも目を向けられるようになります。そして、自然に「あ、あそこにアサガオが咲いているね。キレイな色をしているね」「ほんとだね」とお互いに共感を求める会話が行き交います。

実は、子どもは目に入ったものをただ見ているだけで、注目はしていません。「これって、○○だよね」と人から言われることで、初めて細部まで理解することができるのです。中学受験では、語彙力や体験の豊富さがとても重要になります。小鳥のさえずりを聞いたり、気持ちのよい風を受けたりして、「すがすがしい朝だね」と言われて初めて「すがすがしいというのはこういう感覚のことを言うのだな」と理解できるようになるのです。つまり、この時期の親子の会話がとても大切なのです。

低学年の子どもは、まだ経験値が低いので身体感覚が乏しく、自分の知っていること以外のことを問われても答えることができません。特に国語の情感的なことは、過去に体験がないと想像すらできないのです。

子どもの身体感覚を伸ばすには、いろいろなことを体験させることです。また、親が「これはこうなんだよ」と言葉で教えてあげることです。そうすることで、子どもの世界はどんどん広がっていきます。夏休みはそれができるとてもいい機会です。先取り学習よりも、まずは実体験、そして親子の会話を大切にしましょう。

Point10 夏休みの2大宿題 読書感想文と自由研究を得意な子にする

読書感想文にも自由研究にも”やり方”がある

夏休みといえば恒例の”2大宿題”があります。「読書感想文」と「自由研究」です。これらの宿題は、「好きなものを選んでいい」と自由度が高いため、逆に取り組みにくいという難点があります。でも、大丈夫! なかなか手を付けられないのは、そのやり方を知らないだけで、やり方さえ分かればそれほど手強いものではないのです。

読書感想文や日記などの宿題は、その書き方を授業で教えてもらわずに、ただ出させるだけというケースが多く見られます。それでは、子どもは何をやればよいか分からず途方にくれてしまいますよね。もし、学校で取り組み方を教えてもらっていないようなら、親が教えてあげましょう。

そうはいっても、何をどう教えたらよいか分からないという親御さんもいると思います。そこで、「これさえできていればOK」という基準を教えましょう。

 

〈読書感想文はこれができていればOK〉
【1年生】・・・本に何が書いてあったか、あらすじを書く
【2年生】・・・本のあらすじに加え、自分の気持ちを書く
→(例)「○○になってよかったと思いました」
【3年生】・・・自分の気持ちだけでなく、主人公の気持ちも書く
→(例)「○○はお母さんに会えてうれしかっただろうなと思いました」

 

〈日記はこれだけできていればOK〉
【1年生】・・・その日にあったことを書く
【2年生】・・・その日にあったことの後に、自分の気持ちを書く
→(例)「○○して楽しかったです」
【3年生】・・・自分の気持ちだけでなく、他人(友だちなど)が思うことを意識しながら書く
→(例)「○○ちゃんはとても悲しかったのだと思います」

いかがでしょう? こうしてみていくと、それほど難しいものではないと思いませんか?

中学受験の国語は、他者の気持ちを理解する力が必要

中学受験の国語では、「他人の気持ちを理解できる力」が必要になります。しかし、こうした他人の気持ちを理解する力は、人生経験が乏しい小学生にはなかなか身に付きにくいものです。だからこそ、日頃の親子の会話の中で、「こういうことを言われたらどう思う?」「悲しくならないかな?」といった心の動きを意識させてあげることが大切になります。

低学年に読書感想文や日記を書かかせると、多くの子があらすじや出来事を綴り、最後に感想をひと言書いておしまい、になります。1,2年生のうちはそれでもいいのですが、3年生になったら、もう一歩踏み込んで、「この主人公はこのときどんな気持ちになったと思う?」と聞いてみましょう。すると、子どもは自分以外の人の気持ちも意識して感じ取るようになります。中学受験では、このような共感に基づく思考がとても大切です。逆にそれができない子は、正直中学受験は難しいでしょう。

お手伝いは自由研究のよい題材になる

自由研究のやり方にもコツがあります。どんな研究でも研究には、「仮説」→「実験」→「検証」の手順が必要です。しかし、低学年の子どもは人生経験が浅いため、まだ仮説を立てることができません。ですから、小学生の自由研究では、親がある情報を与え、一緒になって進めていく必要があります。

何を研究したらよいか分からなければ、夏休みの自由研究をテーマにした本などを参考にしてみましょう。でも、ただその本の内容をなぞっていては、自由研究とは言えません。そこで、親がある程度のシナリオを用意しておき、「こうしたらどうなるのだろうね?」「じゃあ、これにこれを混ぜたらどうなると思う?」など促しながら進めていくといいでしょう。つまり、親の演出力にかかっているのです。

「そんな高度な技はできないわ!」と思った親御さんもいるでしょう。でも、大丈夫! なぜなら、自由研究の題材は、日常生活の中に溢れているからです。

例えば、お母さんが毎日作る料理。低学年の研究なら、「お湯に片栗粉を入れたらとろみがついた」というものでもよいでしょう。ただし、4年生なら、そのとろみの成分は何かまで調べておきたいですね。料理、洗濯、庭いじりなど、お手伝いは自由研究のよい題材になります。

植物の観察は低学年におすすめです。ひとくちに観察といっても、観察の研究は日々の成長を調べるもの、ある姿だけにスポットを当てて書くものなど、いろいろな切り口があります。毎日、コツコツやれる子であれば観察日記向きですが、そうでない子は、例えば「へちまのつるはなぜくるくる巻いているのだろう? しかも途中から巻き方向が変わっているのはなぜだろう?」というように、一つの状態をじっくり調べる方が夢中になれるでしょう。

中学受験に必要なのは”もっと知りたい”という前向きな気持ち

そして、自由研究で最も大事なのは、親子で一緒に取り組むことです。親が不思議そうにしていたり、楽しそうに調べていたり、考えたりしている姿を見ると、子どもも乗ってきます。こうした楽しい経験を通じて、「知らないことを知るって楽しいな」と思えたら、それだけで十分に夏休みの大きな収穫となるでしょう。

中学受験に必要なのは、この”もっと知りたい”という前向きな気持ちです。「勉強をしなければ」「覚えなければ」ではなく、「もっと詳しくしりたい」「もっとできるようになりたい」という気持ちになれば、勉強はとても楽しいものに変わります。

こうした気持ちの土台を作るのは、実は低学年のうち。そして、夏休みはその気持ちを育む絶好の機会なのです。

Point11 小さな成功体験が子どもを伸ばす

小さな目標をクリアさせることが、子どもの自信を育む

中学受験における目標は、第一志望校に合格することです。そのために受験生は、小学3年生の冬から6年生の本番まで、約3年間受験勉強に励みます。しかし、その3年の間には、ときには勉強が身に入らなかったり、勉強を嫌になったりすることもあるでしょう。なぜなら、それはあまりに大きな、遠い先にある目標だからです。

大きな目標を達成するには、小さい目標を少しずつ設定して、それを乗り越える喜びを体験させてあげることが大事です。どんなに小さな目標でも、それをクリアしたときは褒め、成功体験を味合わせてあげる。その喜びこそがモチベーションを高め、大きな目標にチャレンジする心を育みます。

お母さんの励ましや褒め言葉が、子どもにやる気を与える

最初の目標は小さなことから始めてみましょう。例えば「学校から帰ったら、自分から宿題をする」としましょう。いつもお母さんが「すぐに宿題をしなさい!」と言わなければやらないからです。「すぐに宿題をしなさい」という問題を解決したいと思ったら、改善して欲しいことがたくさんあっても、まずはひとつに絞りましょう。

1週間の計画を立てて、初日は帰宅した子どもに「今日の宿題は何が出た? 何分くらいで終わりそう? 頑張ってね」とだけ声をかけます。「早くしなさい」「いつから始めるの?」と聞きたい気持ちは封印します。

子どもは必ず宿題のことは気にしているはずですから、あとは待つしかありません。翌日の帰宅後、子どもがいつも通りなかなか宿題を始めていないようなら、「何時頃から始められそう?」と声をかけます。子どもが「5時頃」と答えて実際には7時に始めたとしても、そこはグッと我慢。

そのうち、子どもがいつもより少し早めの6時に宿題を始めようとしたら、「いつもより早く始められるようになったね。えらいね」「頑張ってね」と褒めてあげましょう。学校から帰ってすぐに宿題を始めた日があったら、それを褒めてあげて、2日続けば「2日も続いたね! 頑張っているね」と、とにかく褒めてあげる。たとえ「三日坊主」になってしまったとしても、「3日も続いたらたいしたものよ」と褒めてあげましょう。

そうすれば、少しずつ子どもは自分から「早く宿題を始めよう」と行動するようになります。「優先課題」に取り組んでいるときは、スタートが少々遅れても、文句や小言は言わないこと。親からすれば、子どもを思えばこそあれもこれも気になり、口を出したくなる気持ちも分かります。でも、ここはグッと我慢して、わが子の力を信じてみましょう。ここでうまくいけば、お子さんはきっと「自分はやればできる」と自信を持てるようになります。

ポイントは「ちょっと頑張ればできそう」という予感

子どもは「小さな目標」や「小さな階段」を上がるごとに褒められると充実感を味わい、次の階段、また次の階段へと上っていきます。とても到達できなそうにない山の頂を目指せと言われるより、まずは「少し頑張れば行けそう」な目標を目指し、小さな成功体験を味わうことで自分に自信を持ち、高い場所を目指すことができるようになります。

九九を覚えるときも、すべての段を見せて、「さぁ全部覚えなさい」と言っても、子どもは「とても無理」と感じてしまうでしょう。でも、「今日は3の段だけやってみよう」「明日は4の段をやってみよう」と少しずつクリアしていけば、最終的には全部覚えられるようになります。

この「少し頑張ればなんとかできるかも」という目標設定が大事なのです。前の章でもお伝えしていますが、中学受験の学習範囲は膨大です。「これを全部覚えなければ、合格できないわよ」と言われたら、子どもは途方に暮れてしまうことでしょう。でも、「今週はこれを覚えようね」「これさえ覚えれば大丈夫だよ」と言ってあげるとどうでしょう? 「うん、これならできそうだな」と前向きになれるに違いありません。

小さな目標は、親からすると褒める価値のないものと感じてしまうかもしれません。でも、どんな小さな目標でも、それをクリアできたときはお子さんをしっかり褒めてあげてください。また、途中うまくいっていない場合でも、頑張っているお子さんを認めてあげてください。たとえいつも同じ言葉になってしまっても、褒めるときは必ず言葉で伝えてあげましょう。間違っても、「やって当然」「できるのが当たり前」などとは思わないことです。お母さんの笑顔と言葉が、子どものやる気の原動力となります。

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