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中学受験の「コスパ」を深掘り!費用と進学実績だけじゃない、本当に大切な学校選びの視点とは?

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公開: 最終更新日:2025年07月25日

近年、中学受験を検討する多くのご家庭で、「中学受験って本当にコスパがいいの?」という疑問や議論が頻繁に聞かれるようになりました。今回は、その「コスパ」という言葉の多面性と、中学受験の学校選びにおいて本当に注目すべきポイントについて、主任相談員の辻義夫先生に詳しく掘り下げていただきました。

今、中学受験で語られる「コスパ」の意味

7年ほど前に出版された著書「一番得する中学受験」で使われた「コスパの良い学校」という表現は、現在の一般的な認識とは少し異なるものでした。当時のイメージは、「入学時の偏差値はそれほど高くないけれど、入学後に手厚い面倒見があり、その結果として立派な大学合格実績・進学実績を出す学校」を指していました。つまり、入りやすさに対して、入学後の教育内容と出口の実績が良い、という意味合いだったのです。

しかし、ここ数年で「中学受験はコスパが悪い」といった話題や、「高校受験と比べてどちらが良いか」といった質問が増える中で、多くの方が使う「コスト」と「パフォーマンス」の意味合いは、より具体的なものになっています。

コスト:純粋な「お金」と見えにくい「労力」

現在の「コスト」とは、 純粋にかかる「お金」を指すケースが多い ようです。中学受験をするとなると、やはり費用がかかります。一般的に、小学4年生から中学受験に向けて塾に通わせるのが普通とされており、 小学4年生から6年生の受験までの3年間で、塾の費用だけで大体200〜300万円程度かかる と言われています。

これに加えて、次のような「見えにくいコスト」も発生します。

  • 送り迎えの費用や時間
  • お弁当を作る手間や時間

これらを考慮すると、「中学受験をさせなければこれらのコストは一切かからない」という点で、「中学受験はコストがかかる」という認識は事実と言えるでしょう。ただし、通う塾によって費用は異なるため、詳細な情報はインターネットで容易に調べることが可能です。

パフォーマンス:大学の「進学実績」

一方、「パフォーマンス」とは、主に「大学の進学実績」を指すことが多いです。親御さんとしては、「この学校に通わせたら、将来どのような道を進む可能性が広がるのか」という点が気になるものです。

この進学実績を見てみると、やはり トップ・オブ・トップの大学 への進学実績が目立ちます。

  • 東京大学、京都大学
  • 一橋大学、東京科学大学(旧東京工業大学)
  • 全国の医学部

これらの大学に半数以上の子どもが進学するような、ある種「異常な環境」を提供している学校としては、例えば以下のような学校が挙げられます。

  • 首都圏トップ層の受験校
  •  筑波大学附属駒場中学校
  • 首都圏や関西のトップ層の私学
  •  開成、麻布、早稲田(首都圏)
  •  灘、東大寺学園、甲陽学院(関西)
  • 次に続く進学実績を持つ学校 (上記に挙げた大学に半数程度が進学)
  •  渋谷教育学園幕張、渋谷教育学園渋谷
  •  栄光学園、聖光学院
  •  大阪星光学院、洛南、東大寺学園
  •  東海
  •  ラ・サール、久留米大学附設

これらのデータを見ると、やはり トップ大学に多くの合格者を出す学校は、中学受験を経て進学する私立学校が多い ことが分かります。公立のトップ校としては、東京の日比谷、大阪の北野、埼玉の県立浦和などが挙げられますが、割合としては私学に次ぐ位置づけとなります。

「どうしても医学部に進ませたい」といった明確な目標を持つご家庭にとっては、私学のトップ校を目指すニーズが確実にあると言えるでしょう。

「コスパ」だけでは見失う大切なもの

しかし、ここで立ち止まって考えていただきたいのは、「中学受験におけるコスパ」という考え方だけで学校選びを判断してしまうと、 何か非常に大切なものを見失う可能性が高い ということです。

なぜ「コスパ」がこれほど注目されるのでしょうか?それは、 他の判断基準が分かりにくいから だと考えられます。進学実績は「数字」であり、コスト(お金)も「数字」です。これらは非常に分かりやすい情報です。しかし、 その学校が持っている「校風」や「文化」といったものは、外からでは見えにくく、判断しづらい のです。だからこそ、多くの人が分かりやすい「コスパ」に注目してしまう傾向があると言えるでしょう。

この「学校が持っている文化や校風」にこそ、コスパと同じくらい、あるいはそれ以上に注目することが大切なのではないかと思います。

数字に表れない「校風」や「文化」をどう感じ取るか

「コスパ」や外から見える情報だけで学校を選んで入学させてみた結果、「こんな文化があったんだ!」「体育祭は中学と高校が一緒なんだ!」といった、親御さんの経験とは全く異なる文化に触れ、「やっぱり行かせてよかった」と後から気づくケースも少なくありません。しかし、できれば事前にこうした情報をある程度分かっていれば、コスパ以外の判断基準も持てるようになります。

では、その学校独自の「校風」や「文化」をどう感じ取ればよいのでしょうか?最も良い方法は、 実際に学校に足を運ぶこと です。

もちろん、「学校説明会に行っても良いことしか言わないよね」という意見もあるでしょう。学校の先生方は、当然その学校が好きで、ご自身がその学校で学んだ文化や校風を愛し、それを子どもたちにも伝えたいと考えています。だから、「うちの学校のここが嫌いです」などという話が出るはずがありません。

しかし、それでも現場に足を運び、 実際に生徒に接している先生方と顔を合わせて話を聞くことで、その先生方が持っている熱量や、学校の校風のようなものが伝わってくる ものです。合同説明会でも話は聞けますが、やはり 実際の学校の現場に足を運んでみること をお勧めします。

学校訪問の際に注目すべきポイント は以下の通りです。

  • 生徒さんたちの表情 : 校内でどのように過ごしているか
  • 先生方の熱量 : 生徒に接している先生方の雰囲気や情熱
  • 学校全体の雰囲気 : 構内の環境や生徒間の交流

これらを通じて、「この環境の中で、うちの子を育ててあげたい」「こんな環境の中で育ってほしい」と感じられる学校が見つかるのであれば、中学受験は大きな選択肢となり得るでしょう。

6年間という「膨大な時間」と学校選びの意義

「絶対に高校受験しかダメだ」「絶対に中学受験でないと間違いだ」といった意見を述べるつもりはなく、どちらを選んでも良いという立場です。地域によっては、公立中学へ進む、つまり高校受験しか選択肢がない場所もありますし、一方で首都圏のように選択肢が山ほどある地域もあります。これらを一律に比較しても意味がありません。

重要なのは、もし選択肢が与えられており、 「この学校は良いのではないか」と思えるような、行かせたい学校があるかどうか です。そして、 コストの面でも何とかやっていけそうだという見込みが立つ環境 であれば、中学受験という選択肢を検討してみる価値は大いにあると思います。

中学に入学したばかりの中学1年生は、まだまだ子どもです。しかし、6年後の高校卒業時には、ほとんど大人になっています。この「6年間」という時間は、大人にとってはあっという間かもしれませんが、子どもにとっては「膨大で長い時間」です。この膨大な時間を過ごす学校は、家庭と並ぶくらい重要な「所属する場所」であると言えるでしょう。

だからこそ、中学受験における学校選びは、単なる「コスト」と「パフォーマンス」という数字だけで判断すべきではありません。 大学の合格実績は調べればすぐに分かりますし、かかるコストも大まかな目処は立てられます 。しかし、 数字には出てこない「文化」や「校風」といった部分で、「この学校で我が子を育てたい」と思える学校があるかどうかが、本当に重要 なのです。

親御さんの中には、ご自身の学生時代を振り返り、「あの時代は本当に良かった」「あの時代に自分の元ができたな」と感じる方も多いはずです。お子さんにとっても、そうしたかけがえのない6年間を過ごせる場所を選ぶことが、中学受験の醍醐味と言えるでしょう。

まとめ:中学受験は「環境づくり」への投資

結論として、中学受験は確かにコストがかかります。しかし、そのコストを払う価値があるかどうかは、単に進学実績というパフォーマンスだけで測れるものではありません。

中学受験は、お子様が成長の過程で最も多感な6年間を過ごす「環境」を選ぶ行為です。それは、まるで 大切な苗木を育てる庭を選ぶようなもの です。肥料(コスト)や収穫量(パフォーマンス)も確かに重要ですが、それ以上に、その苗木が健全に、そして生き生きと育つための土壌、日当たり、そして庭師(先生方や学校)の愛情や哲学といった、目には見えないけれど根幹を成す「庭の文化や校風」こそが、その後の成長を大きく左右するのです。

もし、お子様にとって最適な「庭」を見つけることができ、そのための「コスト」が許容範囲内であれば、中学受験は、お子様の未来を豊かに育むための素晴らしい選択肢となるでしょう。

「2025年度版 中学受験ハンドブック」をご活用いただき、よりお子さんにとってよい中学受験にしていただければと思います。

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