6年生2学期からの受験戦略:合格への道を切り開く「過去問攻略の極意」

こんにちは。
中学受験情報局 主任相談員の辻義夫です。
いよいよ中学受験本番が目前に迫る6年生の2学期、9月から12月にかけては、まさに「勝負の時期」となります。この期間をどう過ごすかが、お子さんの合否を大きく左右すると言っても過言ではありません。
夏休み、お子さんたちは「受験の天王山」と呼ばれる時期を乗り越え、たくさんの知識をインプットし、アウトプットの訓練を積んできました。しかし、9月の夏休み明けテストで一時的に成績が下がってしまうお子さんも少なくありません。
これは、夏の間に時間に追われて繰り返された「あたふた学習」による焦りや、毎日暑い中、塾での長時間の拘束による体力的な疲れ、あるいはあまりにも多くの問題を解いたことで1問1問の問題の解き方が雑になってしまうことなどが原因として考えられます。しかし、焦る必要は全くありません。8月末、9月の段階で志望校への合格可能性が70%を超えているお子さんは、実は少数派なのです。
第一志望校に合格するお子さんの大半は、9月の時点では合格可能性が20〜40%(あるいはそれ以下)だったという現実があります。つまり、この時期はまだ力が伸びる時期であり、ここからの数ヶ月の過ごし方で、合格の可能性が大きく変わるのですから、まずは自信とモチベーションを蘇らせ、落ち着いて学習できる心理状態を保つことが何よりも大切です。
そして、この「勝負の時期」の学習の中心となるのが、「過去問演習」です。
目次
なぜ6年生の2学期に過去問が最優先されるのか
6年生の1学期までは、基礎固めのための平常授業が学習の優先事項でしたが、2学期からはこの優先順位が逆転します。最優先すべきは、日曜の志望校別特訓と過去問演習です。平常授業の優先順位はその次となりますが、これまでの総復習を短い期間で行うため、一回で扱う内容が膨大になっています。ですから、できるだけ「塾に行っている時に全て解決する」という気持ちで取り組むことが大切です。
この時期の勉強の目的は、単に成績を上げることではなく、志望校に合格することにあります。夏休み前までに社会の公民分野を除いて受験に必要なことは全て学んでしまったため、夏休み以降、学習の中心は「アウトプット」の練習へとシフトします。過去問演習こそが、まさにその実践の場であり、お子さんの志望校の出題傾向や問題パターンに慣れ、合格に必要な「得点力」を大きく伸ばすことができます。
過去問は「いつから」「何年分」「どんな順番」で取り組むべきか
「過去問はいつから始めればいいですか?」この質問は毎年、夏休みが終わった頃から本当によく受けます。これが正しい、という唯一の回答はありませんが、例えば塾から「10月から取り組みなさい」と言われていたとしても、そこまで何もしないのは危険です。なぜなら、お子さんによって受験校の数や受験計画が様々であるため、いつから過去問に取り組めばいいのかがバラバラだからです。
まず、皆さんに今すぐ行っていただきたいのは、「やるべき過去問の総数を把握し、受験前までにこなすためにどれくらいの時間が必要かを逆算すること」です。一般的な中学受験では、ひとつの中学校で複数回チャンスがある場合も含めて、一人あたり5、6校受けるのが一般的です。例えば5校受験するとして、各学校の過去問をそれぞれ5年分、4教科で取り組むとすると、「5校 × 5年分 × 4教科 = 100回」もの演習が必要になります。解くだけで1回1時間としても100時間が必要となり、さらに間違えた問題を解き直したり、振り返りをするための時間も必要です。これだけの学習を残りの日数で割ると、毎日かなりの時間を費やさないと終わらないことがわかるでしょう。これをまず、カレンダーにプロット(どの学校の何年度の問題をいつやるか)していくことから始めましょう。全部でどれくらいの時間が必要かが分かれば、いつから始めれば間に合うかが逆算できます。
「何年分やればいいですか?」「繰り返し何回もやったほうがいいですか?」という問いに対しては、「やり残しがないように」というのが基本的な考え方です。前述の通り、各校5年分は確保したいところです。ただし、出題傾向が大きく異なる年があるため、学校や教科によって何年分やるかは変わります。たとえば、麻布や女子学院のように、過去数十年、まったく傾向が変わっていない学校もあります。こうした学校を受験するなら、算数や理科は10年分くらい取り組んでおきたいところです。一方で、それまで全て選択問題だったのに記述式に変わるなど、傾向が変わっている場合は、変わる前の過去問をいくら解いても入試対策にはなりません。このような入試問題の傾向に関する情報は、塾の先生なら知っているはずなので、お子さんの志望校の傾向について相談してみるのが非常に有効です。
過去問を解く順番については、塾の先生などによってアドバイスは様々ですが、どれが絶対的に正しくてどれが間違っている、ということでもないのです。一般的には、古い年度のものから取り組むのが良いとされています。中学受験の全体的な傾向として、毎年少しずつ難易度が上がってきていますから、古い年度の問題から取り組むことで、「5年前にこんな条件が加わって、難易度も上がったんだな」と気づきながら、段階的に実力をつけていくことができます。また、古い年度の問題は、すでに塾のテキストや模試で類似問題として出題されている可能性も高く、お子さんが同じタイプの問題や似た切り口で考える問題を経験している可能性が高いからです。
お子さんにとって第一志望校が最も難しい問題を出す(そして偏差値レベルが高い)学校で、併願校は第一志望校よりは易しいというケースが多いかと思います。その場合、順番としては第一志望校以外の学校から取り組むのが適していると言えるでしょう。併願校や前受校の問題は、第一志望校の問題に比べると、やや解きやすく感じることが多いからです。つまり、併願校の問題で基礎学力や「足腰」部分の確認、補強を行い、第一志望校に向けて徐々にレベル、得点力を上げていくという戦略です。また、第一志望で過去に「初見の問題」として出題された問題が、数年後に併願校である中堅校で出題された、といったケースも実際によく見られます。
ただし、注意していただきたいのは、第一志望校の過去問に取り組む順序が後であっても、「時間切れ」になって十分第一志望の過去問を解かないまま受験を迎えてしまわないことです。そのためにはやはり、「どの学校の過去問をいつやるか」をしっかりカレンダー上にプロットしておくことが非常に大切になります。
過去問演習で最も大切な「なおし」(復習)の極意
過去問を解くこと自体も重要ですが、それ以上に大切なのが、解いた後の「なおし」(復習)です。これは6年生の過去問演習に限ったことではありませんが、この「なおし」をいかに丁寧に行うかが、得点力向上への鍵となります。
過去問に関して「一度出た問題と同じ問題は出ない」という言い方をすることがあります。この言い方は、過去問演習の際に間違った問題の解き方をただ丸暗記しようとしているお子さんをたしなめるようなケースで使うことがあります。しかし、逆に「過去問をやることはあまり意味がないのでは」といった誤解を生むケースもあるため、注意が必要です。
確かに、「A中学校」で今年出題された問題が来年の「A中学校」の入試で全く同じ形で出題されることはないでしょう。しかし、その問題と同じ問題が他の学校で出題されたり、同じ問題ではなくても同じ切り口、似た考え方の問題が次の年以降の「A中学校」の入試で出題される可能性は大いにあります。つまり、過去問演習の目的は、過去問で演習した問題だけをできるようにするのではなく、同じような考え方で解く問題を見抜くことができたり、少し違った切り口で出た問題についても、共通点を見つけて解くことができる状態になることなのです。
過去問の「なおし」とは、単に間違えた問題を解き直して正しい答えを書くことにとどまらず、「この問題はなぜ難しかったのか」「再び同じような問題が出たら、自分には解けるのか」といったことを考え、問題から学ぶことです。
私は子どもたちに、過去問を解いた後、問題をmの3段階でランク付けするよう指導しています。
- A:楽々解けた問題
- B:難しかった、解けなかったけれど、解説を読んだら理解・納得できた問題
- C:解説を読んだけど理解できなかった問題
このうち、テスト直しの際に最も力を入れるべきはBの問題です。Bの問題を必ずできるように心がけることで、次へとつながる大きな力が得られます。
特に算数では、復習する際に「どのようにして解答の糸口を見つけたのか」を確認することが非常に大切です。例えば、「状況図を書いたのか」「ダイヤグラムを書いたのか」「とりあえず数個を書き出してみたのか」といった思考のプロセスです。そして、その思考の過程で何に気づいたのかを思い起こすことが大切です。その問題そのものの解き方は、あまり大切ではないのです。最難関校では、これまで解いたことがないような、、どの受験問題集にも掲載されていないような「初見の問題」が必ず出題されます。このような問題が解けるかどうかは、その時に何に気づけるかにかかっています。必要なことに気づきやすい作業、頭の使い方を訓練してほしいのです。
もう一つ、これらの学校の入試問題は、これまで学習を進めてきた塾テキストの問題に比べて、格段に文字数が多いという特徴があります。しかも、必要な条件が順序よく並んでいるとは限りません。大切なことは意外なところに隠れている、ということに気づくのも大切な勉強です。
過去問演習の効果を最大限に高めるために
1. 「本物」に近い体裁で演習する
「書店には様々な過去問題集が売られていますが、実際に過去問演習をする際は、できるだけ本物の入試問題に近い体裁で解くことをお勧めします。問題用紙の余白や解答用紙の解き方を書くスペースの実際の大きさを体感することで、「どれぐらいの量書き込めばいいのか」「計算に使えるスペースはどれぐらいありそうか」など、様々なことが体感できます。学校が販売している実物の過去問や、四谷大塚の「過去問データベース」のように、入試問題の実物をPDFで入手できるサービスも活用すると良いでしょう。
2. 市販の過去問集の「データ」と「解説」を活用するる
学校が販売している入試問題の過去問や、オンラインデータベースの過去問には、基本的に解説がありません。上に述べたような丁寧な「なおし」をし、テストから学ぶにはどうしても解説が必要です。そこで、市販の過去問集の解説をぜひ活用してほしいのです。また、市販の過去問集のもう一つの利点は「データ」が掲載されていることです。合格最低点、倍率、その学校の出題傾向などがデータとして掲載されている場合が多いので、これらを分析し、合格に必要な目標点を意識して取り組むことが大切です。例えば、「ここで何点、ここで何点」と計算しながら点数を積み上げていき、合格最低点プラス5点を目標に復習をしましょう。
保護者の方は、お子さんが普段どのように覚えているのかをチェックし、もし効果が出ていない場合は、「書いた方がいいのか、唱えた方がいいのか」といった様々な方法を試して、一番覚えやすい方法を一緒に見つけてあげましょう。
3. 制限時間を設けて集中する
入学試験に限らず、「テストで頭が真っ白になる」「緊張して点が取れない」というお子さんは意外に多いものです。テストで緊張しないようにするには、普段の勉強からちょっとした緊張状態を作り、それに慣れることが重要です。過去問演習は、制限時間を決めてその中で集中して解く練習を何度も繰り返すことができる、非常に良い素材です。
4. 「相性」も考慮する
過去問を演習していると「この学校の問題は解きづらい」「なぜか何度やっても点が取れない」という学校もあれば「この学校の問題は解きやすい」ということもあります。お子さんと入試問題の「相性」というのは実際に存在するようです。もちろん相性の良い入試問題の学校を受験すれば合格できる可能性は高まりますが、それだけで受験校を決めるわけにもいかないのが現実です。相性のよい学校の中から受験校を選ぶときのポイントについても、塾の先生と相談しながら慎重に検討しましょう。
5. 「なおし」の範囲を判断する
過去問の直しをする時に、その問題を直すだけなのか、周辺知識まで勉強し直すのか、このあたりは取捨選択が必要になります。ある学校の過去問で解いた問題をしっかり「なおし」ておくことで、似た問題や同じテーマの問題が別の学校で出た、というのはよくあることだからです。
過去問演習と並行して行うべきこと
1. 志望校別特訓の最大限の活用
過各塾で実施されている日曜の志望校別特訓は、まさに志望校対策に特化した講座です。特に、お子さんの志望校の単独の特訓コース(特に資格制の講座で、その資格が取れている場合)に所属している場合は、そのコースの授業や課題を最優先することで合格に近づきます。一方で、「混成」コースの場合は「志望校の偏差値レベルに合わせた一般的な特訓授業」と考えるのが妥当です。これらの講座は、全国の中学校で出題された類似問題をピックアップし、分析を行って、解き方や教え方を研究して対策問題のプリントが作られています。講座によっては、10年~20年間もの入試問題のストックを題材としているものもあります。講師の側から考えても、この講座の担当になるということは、その塾の中で力量があると認められたということです。それだけ塾側が力を注いで運営している講座だと言えます。この最も力を注いでいる講座を、利用しないわけにはいきませんね。授業の復習は2学期の学習の第一優先ですが、ただ問題を解き直すだけでなく、「どのようにして解答の糸口を見つけたのか」という思考プロセスを確認することが重要です。
2. 平常授業の活用と総復習
2学期の平常授業は、これまでの総復習が中心となってきます。テキストの問題のほとんどが一度はやったことがあるものになりますが、「この大切な問題を、ちゃんと正解することができますか?」という塾からのメッセージだと捉えましょう。一回で扱う内容が膨大になっているため、できるだけ「塾に行っている時に全て解決する」という気持ちで取り組むことが大切です。解き方を忘れていたと気づいた問題は、帰宅後や翌日までに完全に復習を終えるようにし、一つ一つ着実にクリアしていくことを心がけてください。
3. テストで「自分が取るべき問題」を絞り込む
範囲のないテストが多くなる6年生の2学期になると、1回1回のテストで合否判定が出るようになり、テストがこれまで以上に重要になってきます。ポイントは、テストで自分が取るべき問題を、しっかり意識して取り組むということです。例えば、志望校が偏差値50プラスアルファくらいの中堅校だとすると、算数の模試の大問5以降など後半の問題は、あまり参考になりません。大問1〜4の計算問題、様々な分野の典型的なものにややひねりが入った文章題、図形の問題で確実に点が取れるかが大きなポイントになります。動画では「100−目標校の偏差値」を目安に「取るべき問題」を絞り込む方法についても説明しています。
4. 苦手単元の克服は11月後半まで
入試が近づくこの時期に、苦手なことが残っていると自信を失いかねません。苦手分野の対策は、遅くとも11月後半までに終わらせるようにしてください。これは、弱点対策に力を入れている時期は4教科の合計点数が下がってしまうこともよくあるため、10月いっぱいで弱点対策を終わらせて、11月からは4教科バランスよく点数をとれるようにするためです。短期間での集中的な苦手単元の克服には、塾の授業を利用する方法もあります。塾のカリキュラムをよく確認し、該当する単元が学習される週に算数の家庭学習時間を少し長めに取るなど、塾の授業を最大限利用して効率的に強化しましょう。ただし、11月以降は苦手克服にこだわりすぎず、4教科をバランスよく学習するように切り替えることが重要です。
5. 11月以降は得意分野に重点を置く
入試直前期にさしかかる11月以降は、お子さんがモチベーションを保ち、自信を持って試験に挑めるように学習内容を調整していくことが重要です。この時期は、確実に得点するために苦手分野を勉強させたくなりますが、そうではなく、得意な部分を重点的に勉強するようにしましょう。自信を持つことで、落ち着いた気持ちで入試本番を迎え、集中して問題に取り組むことができるでしょう。「あれもやっておけばよかった」ではなく「これもあれも得意だからきっと大丈夫」という気持ちで直前期を過ごせるような学習ができるように心がけましょう。
6. 個別指導や家庭教師の活用
個別指導や家庭教師を利用しているご家庭は、そちらで志望校対策(過去問を利用した授業)を組んでもらうのもよいでしょう。これから数ヶ月限定で「志望校対策」のために利用するのも有効だと思います。この場合でもやはりポイントは、丁寧な過去問の直しを中心とした学習サイクルだと動画では説明しています。もし、秋の段階でお子さんの得点力が志望校ギリギリ、または少し下である場合は、本当に力がある家庭教師や個別指導を考えてもいいかもしれません。夏を超え、サピックスなら9月のオープン、四谷大塚系なら9月の合不合判定テストなどの結果が一つの目安になるでしょう。
最後に
過去問を初めて演習したとき、すぐに点数が取れるお子さんは少ないと思います。しかし、入試問題には、学校側の「こんな生徒に入学してほしい」という期待の表れがあります。例えば、「ひとつひとつの言葉を注視できる注意力のある子」「難しい問題にも最後まで集中力を切らさずに解き切る忍耐力のある子」といったことです。過去問をていねいにやることで、お子さん自身がこれらの「学校側の期待」を感じ取っていくものですから、早く早くとはあまりせかさないようにしましょう。
目的意識を持って練習し、きちんと「なおし」をして過去問から学び、入試に備えて着実に実力をつけていきましょう。中学受験は、お子さん一人の力だけでなく、ご家庭の支えがあってこそ乗り越えられるものです。お子さんの努力を信じ、前向きな言葉で励まし、最高の状態で本番を迎えられるようサポートしてあげてください。皆さんのご健闘を心より応援しています。
「2025年度版 中学受験ハンドブック」では、単元毎についての学習についても丁寧に触れています。ぜひご活用いただき、よりお子さんにとってよい中学受験にしていただければと思います。