なぜ塾の宿題をこなしても偏差値は上がらないのか? パターン学習の限界を突破する「抽象化」と「条件整理」—中学受験の新たな合格戦略
新学年が始まる2月。
中学受験生を持つ親御さんの多くは「塾の宿題をいかに回すか」「新しいカリキュラムにどう適応するか」という、目の前の課題に追われます。
しかし、近年の難関校入試の現場で起きている事態は、そうした「量」の努力だけでは解決できないレベルにまで進化しています。
今、中学受験の世界で起きている「入試問題と塾のイタチごっこ」の正体、そしてその壁を突破するための鍵となる「抽象化」の思考法について、本質的な議論を展開します。
この記事の執筆者

西村則康 名門指導会代表
40年以上、難関中学・高校受験指導一筋のカリスマ家庭教師。
「なぜ」「だからどうなる」という思考の本質に最短で入り込む授業を実践している。受験を通じて親子の絆を強くするためのコミュニケーションをアドバイス、コーチング手法も取り入れ、親子が心底やる気になる付加価値の高い指導を行う。
目次
1. 「イタチごっこ」の最前線:なぜパターン学習だけでは届かないのか
難関校の入試問題と塾のカリキュラムは、今、終わりなき攻防戦の中にあります。
塾側は、合格実績を上げるために最新の入試問題を分析し、それを「解法パターン」としてカリキュラムに組み込みます。
どんな子でも反復練習によって対応できるよう、複雑な問題を「型」に落とし込むのが塾の役割です。
対して難関校側は、「塾で教えられたパターンを反射的に実行するだけの生徒」ではなく、「自ら思考する生徒」を求めています。
そのため、小学校の学習範囲という制約の中では、塾がまだパターン化していないであろう未知の設定や、「条件の読み解き自体が難解な問題」を突きつけてきます。これが、塾で偏差値が取れていても、本番の初見問題で手が出なくなる「イタチごっこ」の現状です。
2. 合否を分ける能力「抽象化」の正体
この罠を突破するために必要な能力、それが「抽象化」です。
抽象化とは、目の前の具体的な問題から余計な装飾を削ぎ落とし、その奥にある「本質的な構造」を見抜く力のことです。
塾の学習(具体): 「この問題はこの解法で解く」という「点」としての知識。
抽象化の思考(線): 「この問題は、要するにあの単元で習ったあの構造と同じだ」という「紐付け」。
難関校が繰り出す「見たこともない問題」を前にしたとき、合格する子は脳内で「これは一見複雑に見えるけれど、抽象化すればあの基本パターンと同じだ」と、既知の知識へ接続しています。この「具体と抽象を往復する力」こそが、入試本番での対応力に直結します。
また、学習するうえでも、学習する単元を抽象化していくことで、効率的に覚えることができるようになったり、他の単元と関連付け、違いがわかるようになることで、より明確な記憶の定着を行うことができるようになります。
3. 「プロの工夫」と「親の声掛け」の戦略的役割分担
この抽象化の思考を育てるためには、指導者(プロ)と家庭(親)の役割分担を明確にする必要があります。
プロの工夫
自発的な気づきを誘発する 私たちプロの指導者は、あえて「一見違う単元に見えて、実は同じ構造を持つ問題」をセットで提示します。子どもが「あ、これって結局さっきのと同じことだ!」と自ら発見する瞬間をデザインすることで、抽象化の回路を鍛えます。これは高度な教材分析が必要な領域です。
家庭の役割
2つのキーワードによる誘導 親御さんがプロの真似をする必要はありません。家庭学習では、お子さんの思考を促す「2つの問いかけ」に徹してください。
「これ、解き方が似ている問題って他になかったっけ?」(類似性の発見)
「それと比べて、今回の問題はどこが違っているかな?」(相違点の把握)
この「類似するものを見つける」「共通点を見出す」「違いを明確にする」アプローチは、抽象化トレーニングの王道です。この問いかけは、子どもが「手癖」で解くのを止め、脳を「抽象化モード」に切り替えるスイッチになります。
4. 条件整理の力:情報の「可視化」を習慣化する
抽象化の前提となるのが、複雑な条件を整理する力です。難問ほど問題文が長く、条件が入り組んでいます。ここで「頭の中だけで」解こうとせず、いかに図表を描き出し、問題文への「塾ではこれ、どうやってまとめるように教わったんだっけ?」と、塾の教えをリマインドしてあげてください。
塾で習った「整理の型」を思い出し、実際に手を動かすことで、複雑な条件の中から抽象化すべきエッセンスが浮き彫りになります。
5. 新学年のマネジメント:「宿題を捨てる」勇気を持つ
学年が上がると、塾の拘束時間と宿題量は飛躍的に増えます。SAPIXや日能研、早稲田アカデミーなど各塾ともに、新5年生・新6年生は学習負荷が1.5倍から2倍になると言われています。
ここで「すべての宿題を完璧にこなす」ことを目標にすると、子どもは時間を確保するために「手癖」で解くようになり、最も重要な「抽象化して考える時間」が失われます。
やるべき問題を絞り込む: 全問正解を目指すのではなく、思考の深まりが期待できる問題をピックアップする。
質を優先するトレーニング: 10問を反射で解くよりも、1問に対して「塾で習ったこととどう紐付くか」をじっくり考える時間を確保する。
これこそが、新学年のスケジュール管理において親御さんが果たすべき、最も重要なマネジメントです。
6. 2026年入試の「個性」を読み解き、次なる指針を立てる
抽象化は全校共通の有効なスキルですが、同時に「問題の作り方」には学校ごとの強烈な個性が存在します。2026年入試では、下記のような傾向が顕著に読み取れました。
「要するにどういうこと?」を問う: 問題文が非常に長く、会話文や資料の中に重要なヒントが隠されています。
「算数のような理科」「理科のような算数」: 科目の境界が曖昧になり、分野を跨いだ「構造の理解」が試されています。
「作業」を厭わない姿勢: スマートな解法一発で終わる問題は減り、泥臭い「条件整理」を通じて法則を見つける力が求められています。
「中学受験の問題はこうだ!」という定型が崩れ、素材が多様化した今こそ、出題校の「個性のクセ」を知ることが、最短の合格戦略を立てる鍵となります。
現在進行形で行われている2026年入試の分析をいち早く取り入れ、各校の最新の「クセ」を解明すること。それが、新学年の学習方針を確かなものにするための、何よりの指針となります。
終わりに:2月からの「戦い方」を変えるために
新学年のスタートダッシュにおいて、最も恐ろしいのは「頑張っているのに、入試本番に繋がらない努力」を続けてしまうことです。塾のテキストという「具体」の山に埋もれるのではなく、そこからいかに志望校が求める「抽象的な思考」を抜き出せるか。その視点を持つだけで、2月からの学習効果は劇的に変わります。
もし、今の学習方法に不安を感じている、あるいは志望校が求める「個性の正体」を具体的に知りたいと感じられたなら、ぜひプロの分析を味方につけてください。
来る2月12日、私たちは2026年入試の全容を解剖し、2027年の中学受験を勝ち抜くための「入試分析会」を開催します。
入試の現場で何が起きているのか。そして、新学年を迎えた今、具体的にどの単元を、どのような視点で学習すべきなのか。ネットや書籍では得られない、プロの視点による「生」の分析結果を、ぜひ皆さまの戦略に組み込んでください。


