わが子の「やる気」を引き出す3つの基本戦略と中学受験を成功に導く親の関わり方
こんにちは。
中学受験情報局の西村則康です。
長年にわたり、中学受験の指導現場に身を置き、10,000件を超えるご家庭からのご相談を受けてまいりました。その中で、「どうすれば、わが子が自ら机に向かい、やる気を持ってくれるのか」という質問、この質問は本当に多いです。
親御さんは、わが子に一番近い存在であるからこそ、どうしても「できていない部分」が目につき、それを指摘してしまう。この気持ちは痛いほどわかります。しかし、その「指摘」が、実は子どもの内なる「やる気」を奪っている可能性があります。
今回のコラムでは、私の長年の経験に基づき、子どもの内なるやる気を引き出すための具体的な戦略、特に「小さな目標」の正しい設定法と、それと対になる「精神的な報酬(親の承認)」の与え方に焦点を当ててお話しします。
目次
戦略1:「小さな目標」を着実に積み重ねること。それが絶大な効果を生む。
子どもの学習意欲を引き出す「特効薬」があるとすれば、それは「成功体験」を確実に味わわせることです。子どもは、「ちょっと頑張ればできそう」と思える、手の届くところに目標があるとき、最も意欲的に動きます。
さて、この「成功体験」と「小さな目標」の重要性という話は、もしかすると、「どこでもよく聞く、あたりまえのこと」と思われるかもしれませんし、さらに、「集団指導の塾が立てたカリキュラムが、そもそも細分化されていて、その「小さな目標」になっているはずではないか?」ということを思われるかもしれません。
が、私の40年の指導経験と10,000件にのぼるご相談を通して、この「小さな目標」の設定と運用にこそ、成績が伸びるご家庭とそうでないご家庭の決定的な違いがあることに気づくのです。単なるカリキュラム消化では不十分です。
本当に成果につながる「小さな目標」には、「2つの視点」と、それと対になる「精神的な報酬(承認)」が必要となります。
これを丁寧に理解し、家庭で実施できている親御さんは、間違いなく「成績が伸びているご家庭」だけなんですね。
成功体験に不可欠な「2つの視点」
中学受験における目標設定には、「2つの視点」が不可欠です。
- 結果視点(客観的な目標): 「模試で偏差値を○上げる」「テストで○点を取る」といった、外部に評価される、最終的な成果を問う目標。これは主に塾のカリキュラムが担います。
- プロセス視点(主観的な目標): 「10分座って勉強できた」「図を描くことができた」「本文の音読ができた」といった、努力の方向性や学習態度に関する目標。これは主にご家庭が担うべき目標です。
親御さんは、塾が担う「結果視点」の達成だけを子どもに求めるのではなく、家庭で「プロセス視点」に焦点を当てた小さな目標を設定し、確実にクリアさせていくことが重要です。
たとえば、九九を覚えるとき、すべての段を「ぜんぶ覚えなさい」という「結果視点」だけでは、子どもは「無理だ、できそうにない」と感じるでしょう。しかし、「今日は2の段だけやってみよう」「来週は3の段」と、行動を絞った「プロセス視点」で一つずつ目標にすれば、最終的に全部覚えることができます。
これは、もっと高学年になって学習内容が難しくなってからも効果的な方法です。大人もそうなのですが、とても到達できそうにない山の頂を目指せと言われるよりは、まずは行けそうな場所に向かうことを設定し、そこにたどり着くことで達成感を味わうことができます。それを積み重ねることで、高い場所に到達することができるのです。
親の承認(精神的な報酬)が最大の「ごほうび」
親御さんは、子どもがこの「小さな目標(プロセス視点)」をクリアするたびに、それを心から認め、ほめてあげてください。これが、目標達成と対になる精神的な報酬です。
ほめるときは必ず言葉で伝えてあげましょう。「すごいね」「えらいね」「がんばったね」と、いつも同じ言葉になってしまってもかまいません。重要なのは、親が子どもの「努力の過程」と「成長」をしっかり見ているというメッセージです。
まちがっても「やって当然」「できるのが当たり前」などと思わないことです。
「親からほめられること」「親の笑顔」「抱きしめられること」「頭をなでてもらえること」も子どもにとっては最大の精神的なごほうびです。これは自己肯定感を育み、「もっと頑張ろう」という内発的な動機付けを強化する、強力なエネルギー源となります。
戦略2:「納得感」でやる気を引き出す
子どものやる気を引き出すために「このページまで終わったら○○を買ってあげる」などモノで釣る方法がありますが、私はあまりおすすめしません。この効果はあまり長続きしませんし、子どもはすぐにそれに慣れて、喜ぶことさえなくなるからです。
それよりも、本当に自分で納得したという快感を味わうほうが効果的です。難問に試行錯誤しながらも「がんばっている自分って悪くない」と感じ、そして「なるほど!」「そうか!」という知的好奇心が満たされた快感を感じることが、子どものやる気をどんどん高めます。
「わからない原因」に気づいてあげる親の役割
この「納得感」に到達するためには、子どもが「どこでつまずいているか」、つまり「わからない原因」に気づいてあげることが、親御さんの非常に重要な役割となります。
たとえば、「プロセス視点」として「算数の問題で図を描くことができる」という目標を設定したとしましょう。しかし、なかなか図が描けない子には、単に集中力がないのではなく、もっと深い原因が潜んでいることがあります。
図を描くことの意義について見失っているか、あるいは、図の正しい描き方を会得していないことが考えられます。
意義を見失う原因は、主に塾で与えられた課題をこなす中で、類題演習を行うと書かなくても答えが出せてしまうことにあります。結果、面倒な作業(図を描くこと)を省略しても問題が解けてしまうため、複雑な問題になった途端、手が止まってしまうのです。
また、正しい描き方がわからないことで、せっかく描いてもうまく結果に結びつかないということが続き、図を描くことそのものへの意義を失ってしまうということもあります。
親御さんは、こうした根本的なつまずきに気づいてあげることが大切です。あるいは、個別指導や専門家に相談するなどで、この原因に気づくきっかけを与えてあげることが、子どもの学習を本質的に改善し、深い理解と納得感へとつなげる鍵となります。「もっと知りたい」「もっといろんなことに興味を持ちたい」という気持ちは、こうした本質的な理解から生まれるものです。
戦略3:「いったん全部なし」にして重荷から解放し、再スタートを切る
また、子どものやる気がなくなる理由として、やっていないプリントがたまっている、終わるはずだった問題集が進んでない、どこがわからないのかわからない…といった、どうしようもない状況に陥っていることもあるでしょう。この状況は、子どもにとって大きな心理的な重荷となっています。
その場合、山積みになっているプリントを、いったん「なし」にしてしまう方法もあります。
実際、私も親御さんと相談したうえで、たまった塾のプリントを子どもの前でガサッとゴミ箱に入れたことがあります。そうすると、子どもはすべての重荷から解放されたような、うれしそうな表情を見せます。
ここが「次からはどうしたらいいかな」と考えさせるチャンス。一緒に話し合って、無理のない「プロセス視点」の計画を立てて、自分から実行していけるように促してあげましょう。こうした「再スタート」で、子どものやる気を復活させることもできます。
専門家の知恵は「正しい道のり」への羅針盤
それぞれの子どもに合った方法でやる気を引き出し、気持ちよく学習を進めていくためには、親御さんの家庭での関わり方が重要です。そして、その努力を学習への深い理解と、偏差値向上という確かな結果に結びつけるためには、専門家の力を積極的に借りることが極めて重要です。
親御さんが家庭でできる「プロセス視点」のサポートと、私たちのような専門家が提供する「客観的な学力分析と戦略的な指導」を組み合わせることで、子どもは正しい道のりを進み、学習効果は最大化されます。
さきほどコラム上の説明ではプロセス思考について、「なにかを実施することができた」に着目をしていましたが、専門家を通じて改善を行うことで、「◯◯を理解したうえで実施することができた」という形で、「理解したかどうか」に関する評価をすることができるようになります。
不安や迷いを感じたときは、ためらわずに私たち指導のプロに積極的にご相談ください。親子の二人三脚に専門家という「羅針盤」を加えることが、中学受験成功への最も確実な一歩となります。
2025年11月19日、20日に中学受験情報局にて、難関校合格を何人もさせ、偏差値40台の子たちでも勉強への意義を見出せるように指導をしてきたプロの家庭教師と直接対面にてお話できる機会をつくっています。私、西村則康、および、主任相談員の辻義夫先生も参加します。ご検討ください。

