中学受験「理科・社会」の暗記を制する!「ただ覚えるだけ」から卒業し、「戦える記憶」に変える秘訣

中学受験という大きな目標に向かうお子さんをお持ちの皆さん、日々の学習、本当にお疲れ様です。算数や国語といった主要科目に目が行きがちですが、実は理科と社会も合否を分ける重要なカギとなります。しかし、「暗記が苦手で点数が伸び悩んでいる」という悩みをお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
「理科の生物・地学分野と社会は暗記教科だから、受験直前の『追い込み』でなんとかなる」という声も耳にしますが、これは大きな落とし穴です。中学受験の理科と社会で覚えるべき知識の総量は膨大であり、直前の一夜漬けで対応できるほど甘くはありません。例えば社会科だけでも、地理、歴史、公民の3分野を4年生から6年生の夏までに学習します。歴史は古代から現代まで、公民では日本国憲法から三権分立、国際社会に至るまで、小学校では「時間切れ」になりがちな範囲もすべて出題範囲に含まれるのです。
もし「積み残し」が多いと、入試直前期に過去問演習などで忙しくなった際に、とてもカバーしきれません。多くの学校では理科と社会の配点は算数・国語よりも低めですが、筑波大附属駒場中のように「均等配点」の学校では、理科・社会ができないと「致命傷」となりえます。また、開成中のように「高得点勝負」となる理科・社会の出題では、「理社で合格することはないが、理社で落ちることはある」という状況に陥る可能性もあるのです。
では、どのようにすれば理科・社会の暗記を効果的に進め、得点源にすることができるのでしょうか? 本記事では、主任相談員の辻義夫先生のお話を元に中学受験の暗記学習における「思考型学習」の重要性と、具体的な工夫について、詳しく解説していきます。
目次
「丸暗記」の限界と「思考型学習」の重要性
「中学受験の学習において『暗記型学習』はオススメしない」という言葉は耳にタコができるほど聞いたことがあると思います。しかし、語彙や年号、計算式など、覚えておかなければならないことはたくさんあります。そんな中でも、「ただ単語や記号を丸暗記する」だけでは忘れやすく、たとえ覚えていても「どのような問題に必要な知識なのか」が腑に落ちていなければ、意味がありません。
中学受験で求められるのは、単なる知識の羅列ではありません。「なぜこの解き方なのか」「どのような経緯でこの答えに行き着いたのか」をお子さん自身がしっかりと理解しておくことが何よりも大切なのです。低学年の頃は「多分これかな?」と当てずっぽうで答えてもうまくいっていた学習も、学年が上がるにつれて通用しなくなります。
だからこそ、「なぜこの解き方を選んだのか」「なぜこの答えを出したのか」を考えながら学習する習慣を身につけることが重要なのです。暗記学習においても、「○○だから■■だ」といったように、因果関係を元に覚えておくことで、忘れにくく、思い出しやすい知識の付け方が身につきます。
効果的な暗記のためのステップと具体的な方法
膨大な知識量を効率よく、かつ確実に記憶に定着させるためには、計画性と工夫が不可欠です。
1. 計画的な「積み重ね」と「反復」
暗記は直前の「詰め込み」では間に合わないからこそ、分野を分けて、細かく計画的に覚えることが必要です。量が多いため、毎日の積み重ねが非常に大切になります。
そして、一度覚えたことでも何日かすると忘れてしまうのは自然なことです。だからこそ、覚えたら何日か後に思い出すということを繰り返すようにしましょう。この「覚えて、忘れて、思い出す」という作業を繰り返すことで、記憶が強化され、強い記憶として脳に刻み込まれるのです。この過程には時間がかかりますが、何度も経ることで、受験の時に役立つ記憶へと変わっていきます。
「覚えて、忘れて、思い出す」という記憶サイクルは、実は脳のメカニズムに沿った、とても理にかなった学習法なんです。これは心理学の世界では「間隔反復」や「検索練習」と呼ばれていて、簡単に言うと「ちょっとずつ間隔を空けて、何度も思い出す練習をする」ということ。人間って忘れる生き物だからこそ、エビングハウスの忘却曲線というグラフにもあるように、忘れかけた頃にもう一度思い出すことで、記憶がグッと定着しやすくなるんです。
教科を混ぜて勉強する「インターリービング」も、脳にとってはすごく良い刺激になります。例えば、歴史の後に地理、そしてまた歴史に戻る、といった具合ですね。これは脳が「この情報とあの情報は違うぞ」としっかり区別できるようになり、結果的にそれぞれの知識がより深く、長く記憶されるようになるんです。
受験勉強って、とにかく覚えることが多いから「詰め込み」たくなりがちだけど、それだと一時的な記憶になりがち。だからこそ、脳の特性を理解して、計画的に「忘れては思い出す」を繰り返すことで、本番で役立つ本当に強い記憶を育てることができるんです。
ポイントは、「今、塾で習っていること」以外の分野を毎日少しずつ、コツコツ勉強することです。例えば、5年生の後半で歴史を習っているときに、地理の復習をコツコツやる、といったイメージですね。
2. 暗記を楽しく、得点源に変える工夫
「暗記が苦手」と感じるお子さんの中には、単純作業が嫌いという傾向があるかもしれません。しかし、ちょっとした工夫次第で、暗記は楽しく、そして大きな得点源になりえます。
• 語呂合わせの活用と深化
語呂合わせは、暗記を楽しくするスタンダードな方法です。有名な「鳴くようぐいす平安京(平安遷都:794年)」の他にも、「以後よく広まるキリスト教(キリスト教伝来:1549年)」「いちごパンツの本能寺(本能寺の変:1582年)」など、面白いものがたくさんあります。自分で語呂合わせを作るのも、記憶を定着させる良い方法です。
ただし、語呂合わせは非常に有効な暗記法ではありますが、「丸覚え」の一種であることも理解しておく必要があります。どうしても覚えなければならないことを覚えるには有効ですが、「本来の意味での理解」で補強してあげることが重要です。これについては後ほど具体例で詳しく説明します。
• 替え歌でリズムに乗る
特に音に敏感なお子さん(鼻歌をよく歌う、テレビCMのキャッチフレーズをすぐに覚えるようなタイプ)には、「替え歌」が効果的です。リズムに合わせて暗記をしていくことで、頭の中で曲が流れれば、パッと単語が出てくるようになるでしょう。
• 学習漫画でストーリーとイメージを記憶する
「語呂合わせや替え歌も良いですが、暗記の本質は「理解のともなった記憶」です。
文字だけよりも絵やストーリーが一緒にある方が記憶しやすいのは、大人も子どもも同じですよね。その点で学習漫画は効率の良い暗記ツールになります。近年では、「頭がよくなる 謎解き理科ドリル」「頭がよくなる 謎解き社会ドリル」といった、漫画のように読んで楽しく覚えることを目的とした書籍も増えています。 暗記で大切なのは、「他のことと関連して覚える」ということです。様々な方法やツールを利用することで、立体的な知識を身につけることが大切です。
3. 「思考型学習」を促す大人の関わり
暗記をするとき、子どもは一問一答の問題集を上から順番に丸暗記することがあります。これだけだと、その問題集は完璧に答えられても、テストで別の角度から質問されると答えられない、ということが起きてしまいます。
各塾で理社用の暗記テキスト(サピックスの「コアプラス」、四谷大塚の「四科のまとめ」など)がありますが、これだけでは「暗記テスト用」の知識にしかならず、入試に出るような「大問」には対応できません。つまり、理解のともなう暗記には大人がアドバイスする必要があるのです。
• 暗記したら「問題演習」をセットに
暗記をして終わりではなく、その単元がテーマの問題を解くようにしましょう。テストに出るような問題を解かせることが大事です。
• 「なぜ?」を問いかける保護者の声かけ
お子さんの自主性に任せることも大切ですが、勉強の目的をしっかりと認識させるのは、大人だからこそできることです。細かな科目内容を教えられなくても、親ができることはたくさんあります。
「考えながら覚える」といっても、最初はどんな学習をすればいいか分からないお子さんもいるでしょう。考える習慣を付けるには、お母さんからの適度な声かけが効果的です。
「どうしてその解き方を選んだの?」
「お母さんこの答えが解らないから解き方教えて」
と質問してあげてください。たとえ答えが間違っていても、責めるような口調になってはいけません。
あくまでも「お母さんからの質問」「お母さんが感じている疑問を解決したい」というスタンスで聞いてあげましょう。
お母さんが「分からない人」という前提でお子さんの説明を聞いて、「なるほど、分かった」と感じたなら「とてもよくわかった、ありがとう」と正直な感想を伝えてあげるといいですね。うまく説明できない場合でも、相手に分かるように説明しようとすることで、お子さん自身の理解が深まったり、「どの部分が分かっていなかったのか」が自分で分かったりというメリットがあります。
4. お子さんに合った暗記法を見つける
暗記って、本当に人それぞれ。一口に「覚える」と言っても、その方法は多種多様ですよね。
例えば、
- • 書いて覚える:ひたすらノートに書き写したり、単語帳を作ったり。
- • 聴いて覚える:講義の音声を繰り返し聞いたり、自分で読み上げたものを録音して聞いたり。
- • 見て(読んで)覚える:参考書を熟読したり、図やイラストを眺めたり。
- • 口に出して覚える:声に出して読んだり、誰かに説明したり。
これ以外にも、蛍光ペンで色分けしたり、チェックシートで隠しながら確認したり、中には身体を動かしながらリズムに乗って覚えるのが得意なお子さんもいます。
テキストの解説を読むだけでなく、YouTubeなどの動画で視覚的に情報を得ることでスッと理解が深まる子もいますし、逆に友達や先生に自分が覚えたことを「こんなこと覚えたよ!」と説明することで、より確かな知識になるケースも多いんです。
実は、このような「覚える方法の好み」は、心理学の世界では「VAKモデル」という考え方で説明されることがあります。
VAKとは、
- • V (Visual):視覚優位型。見て覚えるのが得意なタイプ。図やグラフ、写真、動画など、目から入る情報で理解を深めます。
- • A (Auditory):聴覚優位型。聞いて覚えるのが得意なタイプ。講義や会話、音楽、音読など、耳から入る情報で理解が深まります。
- • K (Kinesthetic):身体感覚優位型。体を動かしたり、体験したりして覚えるのが得意なタイプ。実験や実習、実際に手を動かす作業、体で感じることで記憶が定着しやすいです。
もちろん、どれか一つのタイプに分類されるわけではなく、多くの場合、複数の感覚を組み合わせて学習しています。また、VAKモデルは「自分に合う学習法を見つけるヒントになる」という側面がある一方で、「一つのタイプに限定しすぎると、他の学習方法を試す機会を失ってしまう」という批判的な意見もあります。
だからこそ大切なのは、お子さん自身が「自分はどんな方法だと一番集中できるかな?」「どんな方法だと、すんなり頭に入るかな?」と、色々なやり方を試してみること。お子さんには向き不向き、得意不得意が必ずありますし、ほんの少し勉強方法を変えただけで、成績がぐんと伸びることも少なくありません。
ぜひお子さんと一緒に、色々な暗記法を試行錯誤してみてください。そうすることで、お子さん自身が自分の「得意な学び方」を見つけ出し、それが自信にもつながっていくはずです。最終的に、お子さんにとって最も効果的な暗記法、勉強法が明確になり、効率的な学習へと繋がっていくでしょう。
日常の学習習慣に組み込む工夫:朝学習のすすめ
四字熟語や算数の公式、計算式、社会科で出てくる都市の名称など、暗記しなければならないものは各教科にたくさんあります。上記のような「覚え方」を工夫するとしても、このような暗記学習の時間は必要です。家庭学習の中では、朝に学習することが特にオススメです。
毎朝30分早く起きて基礎的な暗記学習や計算練習をする習慣をつけておくと、学習内容的にも朝・夕・夜とやる事が分類され、やるべきことが明確になります。この時も「漢字の意味」や「計算過程」を考えることを意識しながら学習しましょう。
朝学習は最初は大変かもしれませんが、1日を長く有意義に過ごせるだけでなく、朝から頭を使う学習をすることで、しっかりと目が覚めますね。また、朝のうちに基礎学習を済ませることを習慣化しておくと、夕方からは予習や復習、高学年になるにつれて難しくなり、時間を費やしたい問題にも集中できるようになります。
【事例】理科「生物」分野の暗記:昆虫の変態から学ぶ「意味づけ」の重要性
理科の生物や地学といった「暗記分野」は、「ただ覚えるだけ」と思われがちですが、実は普段からの工夫によって大きな差がつく分野の代表です。通常、進学塾では4年生くらいから理科の学習が始まりますが、この段階では昆虫やメダカ、植物、太陽の動きなど、いわゆる「暗記分野」が中心です。高学年になると、「覚えるだけの学習だから本人に任せている」「入試直前にまとめて覚えれば間に合う」と軽視されがちですが、本当に「覚えるだけの学習」なのでしょうか?
答えは「ノー」です。中学入試の理科において、これらの分野が出題されない学校は皆無だからです。また、生物や地学は、自分からどんどん勉強する子と、なかなか取りかからず、取りかかっても嫌々という子に分かれやすい分野でもあります。親御さんが理系出身や理科好きでなくてもお子さんの勉強に付き合いやすいので、授業でどんなことを習ったか、何に興味を持ったかなど、話に付き合ってあげるのが良いでしょう。
ここで、昆虫の変態を例に、語呂合わせに「意味づけ」を加えて記憶を強化する方法を見てみましょう。昆虫は大きく分けて3パターンの成長をします。
B. 卵 → 幼虫 → 成虫(羽が生える)(不完全変態)
C. 卵 → 幼虫 → 成虫(羽が生えない)(無変態)
あるお子さんが、塾で完全変態の昆虫について面白い覚え方を習ってきた話があります。
お子さん:「うん。完全変態っていうんだよね(笑)。」
母親:「そう。体のつくりが大きく変わることを『変態』って言うんだね。完全変態の昆虫の覚え方は習った?」
お子さん:「習ったよ。面白いんだ。ちゃんと覚えてるよ。」
母親:「そんなに面白いの?教えてよ。」
お子さん:「『かぶと山 八兆円のありかが危ない テントをはるのみ』っていう覚え方なんだ。」
母親:「へえ、なんか面白いね。カブトムシ、ハチ、チョウ、アリ、カ…それから?」
お子さん:「あとは、ガ、アブ、テントウムシ、ハエ、ノミだよ!」
母親:「すごいね。いい覚え方を習ったね。」
この語呂合わせは、カブトムシ、ハチ、チョウ、アリ、カ、ガ、アブ、テントウムシ、ハエ、ノミといった、完全変態をする昆虫を覚えるのに非常に効果的です。しかし、これだけで終わらせず、「本来の意味での理解」で補強してあげることが重要です。
例えば、「さなぎになる=体のつくりが大きく変わる=幼虫と成虫で、見た目も食べ物も大きく違うことが多い」といった視点を投げかけてあげましょう。
• カブトムシは、幼虫は腐葉土を食べ、成虫は木の樹液を食べます。
• モンシロチョウは、幼虫はアブラナ科の植物の葉を食べ、成虫は花の蜜を食べます。
これらの「幼虫と成虫で見た目や食べ物が全く違う」という点も、入試で頻出の知識です。
このような視点を投げかけると、「あれ、テントウムシの幼虫ってどんなだっけ?」といった疑問がお子さんの中に湧いてくるかもしれませんね。そんなときは「一緒に調べてみようか?」と声をかけてみましょう。
このように、単なる暗記で終わらせずに、その知識が持つ意味や、他の知識との関連性を考える「意味づけ」を行うことで、お子さんは暗記を「苦行」ではなく、知的な探求のプロセスとして捉えることができるようになります。
まとめ:中学受験の暗記は「戦略」が鍵
中学受験の理科と社会の暗記は、決して簡単な道のりではありません。しかし、ご紹介した様々な方法や工夫、そして何よりも「ただ覚えるだけ」ではない「思考型学習」の視点を取り入れることで、お子さんの暗記力は飛躍的に向上し、大きな得点源へと変わります。
もちろん、直前の猛勉強も効果的であり、「覚えたことが得点に変わる」可能性は入試前日、当日まで続きます。しかし、それはあくまで時間をかけてつけてきた知識があってこそです。
語呂合わせ、替え歌、漫画などのツールも含め、どのような工夫ができるか、今一度お子さんと一緒に考えてみましょう! 親御さんの適切なサポートと、お子さん自身の「なぜ?」を大切にする姿勢が、中学受験における暗記の成功、そしてその先の学習の土台を築く鍵となるでしょう。
「2025年度版 中学受験ハンドブック」では、単元毎についての学習についても丁寧に触れています。ぜひご活用いただき、よりお子さんにとってよい中学受験にしていただければと思います。